「...どうしたの?」

「―――― えっ」


 しまった、うっとり顔を眺めてる場合じゃないんだわ。

 しかもこんなに凝視しちゃって、絶対変に思ったよね?


「す、すみません! あの、私これ」


 この30分間ずっと握り締めていたラベンダー色の小さなカードを、彼の前に差し出した。

 この頼りない紙切れに、私の精一杯の勇気が詰まっている。


「これ、読んでください!!」

「え?」


 私はカードをぐいっと彼の胸に押しつけると、脱兎の如く逃げ出してしまった。


「ちょ、待てよ...おいっ」



 困惑した彼の声が背中越しに聞こえる。

 でも、もう立ち止まれない。

 引き返せない。




 私の一世一代の大きな賭けは始まってしまった。




     『 もしも叶うならば

        今宵一夜の

       あなたをください 




          1037号室にて

            ハルヒ 』





 リミットは明日の朝。




 私の頭のなかで、ことん、と 砂時計を反す音が響いた。