私が少し笑うと仁は驚いた顔を見せた。
「なにか?」
「い、いや……別に」
仁は顔を逸らすとそれっきり話しかけてくることはなかった。
※
南明は愉快な気持ちで階段を上がる、地上に出て扉を閉めると……
「誰も通さないように……」
警備兵に扉の前にしっかりと立たせた。
南明は王蘭と会ってみて驚いた。最初に見た時はもっとオドオドして、人の顔など真っ直ぐにみられない女性だった。
それが今日会ってみたら、まるで人が変わったかのように別人のようになっていた。
彼女は私に会ったことなど覚えてはいないようだ。
まぁここの後宮に入る時に少し立ち会い話をした程度。その間顔もあげなかったのだ、自分の顔を覚えているわけもない。
しかし……仁陛下への態度にも驚いた。
一度も会ったことが無いとはいえ、陛下はかなり見目が良い。それだけで女性は目の色を変えて陛下を見つめるものだが……
陛下を無視した王蘭を思い出して、またクスクスと笑い出す。
これはなにかいい事が起こりそうだ……しかしその前に……
王蘭が鈴麗に何もしていない事を証明しないと……本人が何も無いと言っている以上彼女が何もなかったといえば解放だったのだが。
まさか話したいと言うとは……何があったのか……
しかしその前に……
南明は鈴麗が溺れた時に駆けつけた医師の元に向かった。
「――先生、ちょっとよろしいでしょうか?」
南明は医務室に入るなり声をかける。
「ん? 南明様……なんの用でしょう?」
医師は突然現れた南明に、腰掛けていた椅子から立ち上がろうとする。
「ああ、座ってて構いません。少し鈴麗様と王蘭様の事でお聞きしたく……」
「ああ、あの池で溺れて助かったお方ですな」
「あの池?」
「あそこは後宮に住まう女達の自殺の名所ですよ。唯一足のつかない場所があって……なんででしょうね。死にたくなると引き寄せられるのでしょうか」
「そんな場所があるとは……すぐに改装しなければ……」
「まぁ医師達の噂話程度ですがね」
先生はそれほど本気にしていないのかケラケラと笑った。
「まぁ一箇所深くなっているところがあるので、確かに危険ではありますから、直していただけると助かります」
先生の言葉に南明はメモを取る。一通り書き付けた後、南明は顔を上げた。
「それで、鈴麗様達の同時の様子ですが……」
「はい、私が駆けつけた時には鈴麗様はもう息を吹き返しておりました。聞くと王蘭様が鈴麗様に接吻をしたり、胸を触ったりしていたら、水を吐き出して助かったのだと。しかし、王蘭様の女官が言うには心臓を押して助けたのだと……確かにそんな救助方法があると聞いた事がありましたが、王蘭様が何故それを知っていたか……」
先生は首を傾げた。
「それは……そのおかげで鈴麗様は助かったと?」
「それは有り得ますね。かなり水を飲んで、助けた時には息はしてなかったと聞きます。王蘭様といい鈴麗様といい運がよろしかった」
南明はその話を聞いて尚更王蘭に興味を持った。

