「はぁ……」
誰に見られているわけでもないが、王蘭は口を隠してため息をついた。
王蘭は美しい見た目と、家柄から後宮へと入ることを許された。
だが、本当はそんなこと望んでなかった。
後宮入りを両親は泣いて喜んでくれ、家にあった高価な家具など全て持たせてくれた。
王蘭はそんな喜ぶ両親を前に、自分の本当の気持ちを言えずに曖昧に笑った。
しかし、後宮に行くことが避けられないのであれば、両親の気持ちに応えたい。淡い気持ちを胸に抱き、この後宮にやってきた。だが、待っていたのは辛い現実だった。
家柄が低いため周りの后紀候補からは邪険にされ、自分の居場所など何処にもなかった。
高貴な出の后妃候補達がたくさんの女官を引き連れる中……自分に付いたのはたった二人。
皇帝陛下はこの後宮には寄り付かず、まだ一度の拝顔すら叶わない。広い後宮の隅に置かれた居室で、王蘭は孤独で、無味乾燥な日々を送っていた。
自分の生きる意味がわからなかった。唯一の楽しみは後宮に咲く花を楽しむこと。
今日もこっそりとため息をつき、花を見に行こうと一人散歩に出る。
だが、花は無惨に踏み荒らされていた。見れば後宮の女達がこちらを見て、ニヤリと嘲笑を浮かべている。
何か言い返せればスッキリするのかもしれないが、王蘭にはそんな勇気などなかった。
サッと負けたように視線をそらすと目に涙が盛り上がり、視界が歪む。王蘭はかけ出すと、一人になれる場所を探した。
少し離れた場所にある池にたどり着き、橋の上から自分の姿を覗き込む。
そこには不幸な女が映し出されていた。自分の意見も言えず、両親の期待にすら満足に応えられない。せめて陛下の目に少しでも留まったら、まだ女としての価値もあるだろうに、意気地なしな王蘭では無理だ。まるで意思のない、人形のような自分。
水面に映る悲しそうな女性に手を伸ばす――
誰も救い出してくれない彼女の手をつかもうと身を乗り出すと、王蘭はそのまま池へと落ちていった。
池は思いの外、深い。身につけた衣服が水を含み、自力では上へ上がれないほどに重くなっていた。
……しかし、王蘭に地上に上がる気はなかった。
全てを諦めるように空を見上げると、水の中で陽光がキラキラと反射している。
(あれ? 私この光景……前にも見た事が……)
しかし、王蘭はその記憶を思い出す前に意識を失っていた。