女はリラックスした様子でソファーに腰を下ろし、見せつけるようにして脚を組んだ。

見事な美脚だった。

俺はベッドの足元側、窓を背にする位置に立ったまま女と対峙した。


「あたしが来るとは思わなかったでしょ?」 

「いやあ……あんまり美人だったから驚いてしまってね」

「なにその歯の浮くような台詞」

それまで幾分にこやかな表情をしていた女の顔が一瞬で鉄仮面に変貌した。

背筋が凍りついた。

身の危険を察知した俺は、不穏な空気をなごませようとすかさず口を開く。

「うん、綺麗な子だ。どうだろう、さっそくシャワーでも浴びて――」

「なに言ってんのよ」

「浴びませんよね、ええ。あんなものは小汚い人間が浴びてりゃいいんです……」


女は頬杖をついて俺を見上げている。

前のめりになっているため、大きく開いた胸元から豊かな谷間を覗かせていた。

「頭おかしいんじゃない?」

汚物を見る目で女が言った。


理不尽極まりないとはこのことだ。

どうして俺が殺人鬼のご機嫌取りをしなければならんのだ。

女の胸元を凝視しながらも俺は憤りを禁じ得なかった。


一戦交えるか? 所詮相手は女だ……

いや待て、凶器を隠し持っているに違いない。うかつに動くのはやはり危険だ……

そうだ、酒だ。酔わせてしまえば必ず隙が生まれる……


「そうそう、極上のスコッチが――」

「ちょっとそこ座んなさいよ加賀見さん」

「ええ、もちろん座……え?」


カガミさん……?

カガミ……カガミ……


「昨日のこと覚えてないの?」


加賀見仁志……


俺の名前じゃないか。

……何故だ? 呼ばれて初めて思い出した気がする。

おかしい……何かがおかしい……


「昨日あたしに殺されたじゃない」


そう言って、女は脚を組み替えた。