『そこまで言うのなら、聖一がアメリカへ発ったらすぐに今住んでいるマンションを出なさい』

『職場も転職してもらう。住む場所もすべてこちらで責任を持つから安心しなさい』

『それから、このことは決して誰にも言ってはいけないよ、もちろん聖一にもだ』

来週の今頃、私は見ず知らずの場所で聖一さんを想って泣いているかもしれない。私はお父様から試されているんだ。そう思ったら抗議することもせず、静かに首を縦に振った。

とにかく彼がなにも心配なく安心してアメリカへ発てるようにしたい。だから私は聖一さんに嘘をついた。本当のところ、お父様はまったく安心なんかしていない。むしろ私を〝素性の知れない者〟と疑っている。もし、聖一さんがほかの人を好きになったというのなら、悲しいけれど私は引き下がるしかない。でも、彼が何年離れ離れになろうとまた巡り合えると言ってくれた。それだけでポッと胸の中が温かくなる。

「あっ」

「真希……」

彼の熱が私の身体の中に情熱的な刺激を与えてくる。しっとりとした互いの肌を重ね合わせ、私を想ってくれる彼のまっすぐな気持ちに思わず目じりから涙がこぼれた。

本当は片時も離れたくない。一緒にアメリカに行けるものならどんなに幸せだろう。だけど私にそれは許されなかった。もうこの身を消してしまいたいとも思う。

「泣くなって、俺はお前を絶対に離さない。逃げようとしたって必ず捕まえる」

涙でぐちゃぐちゃになった顔で聖一さんを見ると、どうしてか彼まで泣きそうな顔をして笑った。その表情は背筋に甘ったるい痺れが駆けるほどこの上なく優しくて温かだった。