甘い災厄









ん。
昨日の夜?

「まつりー。あとで、それ聴いていいかな?」

ぼくが、どうにか、にこやかに言うと、まつりは誇らしげに笑った。

「家に帰ったら何回も聴くんだー!」

かわいいけど、威張るとこじゃないぞ?


「……よかった、置いてきてて」

だいたいなんでそれで納得するんだ。恋人とかがいるという誤解を与えて場を納めるにしても、それは一番最悪の選択肢だと思うが。っていうか、とどめだぞ。

と、考えていると、ぽつりと、そいつは呟いた。

「いつか、忘れても、知ることができるね」

「え……」
最近、まつりの記憶喪失は、やや落ち着いている。それは、最近《そういう》事件に関わっていないからだ、ということかもしれないけれど、本人はいつだって、そうやって不安なままなんだ。