なんだか意味深だった。けど、あまり追及するのはやめておく。せっかくの旅行が暗い気分になったら困るから。
「機械に乗って空を飛んでるっていうか、なんか、不思議な気分になるんだよ。なんか、ちょっと、離陸するときは、ゾクっとする」
天国と言われる地が、あの雲の群れのどこかに存在していて、窓を見ていれば、いづれ目で見ることができるんじゃないか。そんな錯覚さえしてしまうんだという。
「そうなんだ」
「まあ、でも、まつりは地上が好きだけど」
「ぼくも」
「あの」
横から声。20代くらいの、ピンクのスーツを着たOL風の女性が、こちらに来た。
「はい……?」
まつりに近づいてきた彼女は言う。
「芸能にたずさわる方ですか」
まつりは、いいえと言うが、彼女はモデルのなんとかって人に似ているとかまくしたてる。ぼくは、横でぽかーんとしてしまう。
近くを通りかかった男性が、なんだなんだとこちらに来て、女性の友人らしき派手なメイクのOL風の人が、ちょっとあれモデルさん? と騒ぎ出す。
やがて少し、辺りに人だかりが出来てくる。
まつりは、昔からなぜか人を集めやすい。しかし人混みが苦手だった。
「うわわわ……」
焦るまつり。ぼくも、焦る。出口は前方。
やることは、ひとつ。
「こっちだ」
「ななと……!」
考える暇はない。
パニックを起こす前に、とぼくはそいつを引っ張って駆け出す。
まつりも従って出口に走る。
いまだ勘違いしている何人かの女性がしばらく追ってきたが、逃げ続け、やがて、どうにか隠れて巻くことに成功した。
「ああ、疲れた」
まつりが、ぐったり、力のない声で言う。ぼくも、と同意を示すと、二人で笑った。
ああ、おかしい。
何がおかしいかわからないが、なんか安心した気がする。
「まつりはモデルとかじゃないのに……」
「案外、話しかける口実だったのかもな」
ぼくは言う。
まつりは、なんというかどこか、独特の色気……フェロモンみたいなのが、あって、近くに居たら、なんだか放っておけないような気分にさせるから。本人は無自覚だが。
「しまった、昨日の夜録音したのを聞かせたら納得してもらえたかもしれなかった。プレーヤーおいてきたけど」



