夏々都は言いながら、机の上のノートを数学から国語に切り替える。
試験対策用の参考書は、分厚い。あれだと、まつりなら絶対半分くらい使わない内容がありそうな気がした。
「……ふむ。やっぱり、夏々都はえっちぃことに興味が出てきたのだ」

「なっ……違……う、気が、する!」

気がする?
曖昧な言い方をしながら、夏々都はわざとらしく参考書をパラパラめくる。
あれは絶対頭に入っていないだろう。

ベッドでごろごろしていたまつりは起き上がり、夏々都に冷ややかな目を向けた。ちなみに軽蔑のためではなく面白がっての演技の視線である。

「ふうん? 夏々都は最近あんまり抱っこしてくれないし、無理やりちゅーしたらその日夜は絶対一緒に寝てくれないし……」

 演技だったが、だんだん実感してくると、ちょっと切ない気分だった。
まつりの身体は、たぶん何かを忘れていて、その容量を埋めるかのように、夏々都についての沢山の記憶を欲しがっているので、それを向こうから拒絶されると、ちょっと悲しい。
 昔から涙腺が緩いのが悩みなのだが、だんだん目が潤んでくる。
ああもう、泣きたいわけじゃないのに。