「いや、ちょっと、疲れただけ」
ぼくが言うと、まつりは、そうだねと微笑む。
「隣町に来るのに、結構かかるよね……こっちのが便利が良い。引っ越す?」
「いや、ダメでしょ」
ぼくが言うと、そいつは、あははと笑った。
冗談らしい。
「夏々都は好きな人いる?」
そして突如、聞かれる。夜風を感じながら、ぼくらは外に踏み出して、歩く。
何気ない会話だとわかっていた。
「今まで出会った人みんなが好きだよ」
「なにそれ、優等生?」
「本音」
「へぇ……」
なにか、思うことがあるのか、しばらく前方を歩いていたまつりだが、ぼくの方を振り向くと、にっこりと囁いてきた。
挑発するような意地の悪い笑顔だ。
「でも――夏々都の初めては、あらかたまつりが奪っておいたよ」
クスクス、愉快そうに。
「誰が夏々都を好きになろうと――まつりより上の立場には、行けないよね。なにもかも、まつりが一番の基準」
ぼくは言う。
「ああ、本当に、最悪だ……」
ぼくは、言う。
「ぼくじゃなきゃ、絶交してたよ。ほんっと、全部責任、とって欲しいくらい」
一生、ぼくからまつりが離れなければ、いいのに。なんて、叶わないのだろうけど。
「取るって言ったらどうする? まつりが、ずっと夏々都の責任をとるって言ったら」
まつりは、冗談めかして、軽い調子で聞いてきた。ので、たぶん冗談だろう。
ぼくは、ははっと笑って答える。
「そりゃあ、面白い」
まつりは「……」と、少し何か考えていたが、やがて、でしょう? と相づちを打った。



