甘い災厄











わずかに耳を赤くして睨んでくる。

「なんで?」
理由がわからず首を傾げると、彼は苛立ったように、また足を踏んできた。
「恥ずかしいの」
以前はそんなことを言わなかったのに、どうかしたのだろうか。
自分はともかく、周りを気にしているようだった。周りが、どうしたのだろう。まつりにはただの接触でしかないから、よくわからない。

「まつりは恥ずかしくないよ。夏々都が可愛いなって」
「……そんな気安くしたらだめだ」
「ホテルについたら、していい?」
まつりが聞くと、夏々都が答えるより先に、真後ろの座席から、ごほんごほんと、男性の咳払いが聞こえてきた。喉が痛いのだろうか?
「飴、食べますか」
ポケットにあった、のど飴を差し出しながら振り向く。スーツ姿、眼鏡をかけた、真面目そうなサラリーマン風の男性が居た。彼も、顔が赤い。風邪が流行っているのかもしれない。
「あ、いえ……いいです」
彼は、まつりから目を逸らしながら弱々しく笑って断ってきた。
そんなやりとりをして、席に戻ると、夏々都が、「なにやってるんだよ」と呆れた。
「だってあの人、喉が痛そうで」
まつりが答えると、夏々都は恥ずかしそうに俯く。
「うわ……絶対聞かれてたぞ、それ」
「聞かれてた?」
「ホテルがどうとか……」
それが、なんだというのだろう。