-世界-
灰色のつらい世界から広い鮮やかな世界に連れ出してくれたのは君でした。
 いつも無邪気に笑う君があまりにもまぶしくて、やさしくてあたたかった。
君が見せてくれる世界は、いつもきれいで心地よくて。
 君が私に見せてくれる、与えてくれるやさしさが何よりもうれしかった。
 いつしか君に何度も救われた。
 君の隣で笑っているとき、世界中の誰よりも輝いている気がした。
でもそんな幸せな時間は一瞬で、壊されてくずれていく。
自分は逃げてばっかりで、向き合う勇気なんてない。
君は黙ったままで、何も教えてくれない。
教えてくれないとわかんないよ。
ねぇ、何を隠してるの?なんで、謝ってばっかなの?
噓はなしで、本当の君を教えてよ。
 
いつも変わりのない平凡な世界から僕を連れ出してくれたのは君でした。
 鈴が鳴るみたいに笑う君があまりにもきれいで鮮やかで、誰よりも輝いていた。
 君が僕にくれるやさしさは僕の一生分の‶幸せ″と‶勇気″だった。
 いつしか君は僕の光そのものになった。
でも、一瞬で壊されて崩れていった。
君に伝えたいのに伝えられなくって。
臆病で根性なしの僕は、言いなりになって、君にすべてを隠したんだ。
心で叫んで、届かないのがわかってて、ずっと、それを繰り返してる。
噓はなしで、本当の僕を君に教えたい。

ごめん…。
なんで、謝ってばっかなの?
噓なんていらないよ。
本当の僕と君に出会いたい。


                                                                            
                                        
                                                                                                     


      





                                                                                 


                                                    
                                                                                                          



                                                                                                       


-見るたびに-
いつも朝、席に座っていると、教室のドアから見える君の姿。
諦めないといけないのは、わかってる…。
もう、終わったのも知ってる…。
けど、この苦しい思いもうおしまいにする。
うちの元カレ、嘉雅 響斗(かが ひびと)はうちの好きな人…。

「水瀬~。」
「はい。ちょっと待ってね。」
美香ちゃんに呼ばれて、美香ちゃんのところへいく。
美香ちゃんは、仲良しグループの一人。
「どうしたん?」
「昨日ね、後輩に告られた。それでね。すごいイケメンなんよ。どうしよう。」
「でも、先輩とはどうなったん?」
みんなが言うには、美香ちゃんは男子の一番じゃなきゃ嫌なタイプならしい。
「それがね、なんか付き合ってもないのに彼氏面してくるから、マジで無理。」
「そっか、それはきついわ。」
美香ちゃんの相談について考えていると、
「そういえば、昨日ね、響斗とバーベキューしたんよ!」
ニコリと笑って言ってくる
「そうなん?美味しかった?」
気にしてないふりをする。
美香ちゃんと嘉雅は親同士の仲がよく、幼なじみみたいな感じらしい。
仲良しグループの向日と瑠美ちゃんが言うには、代議員だったうちが男子から頼られているのとか、嘉雅を取られたのが嫌で、嘉雅を脅してうちと別れさせるように仕向けたのでは?
などと言っていた。
「美香ちゃん、もうチャイム鳴っちゃう。」
「ほんとだ、バイバイ~。」
そう言って美香ちゃんは手を振った。
「うん。また。」
と話し終わったとき嘉雅が友達と話しながら、前を通った。
「響斗~。」
美香ちゃんがかわいい声で名前を呼んで駆け寄っていく。
ズキズキ
胸が苦しい。
美香ちゃんはうちを見て、また手を振る。
2人が隣の教室に戻る。
嫌だ。無理。
「おはよう。水瀬。」
「向日!!」
「美香にまた、嘉雅と遊んだ話聞かされた?」
「えっ、うん。まぁ。」
「絶対にわざとやってるよね。」
「そうかなぁ?」
向日が言っているのは多分正解。
チャイムが鳴る。
「チャイム鳴ったから行くね~。」
「バイバイ~。」
向日と別れて、席につく。
「なぁ、水瀬。」
と男子が声をかけてくる。
「嘉雅と付き合ってて、遊んだ時に元カノのあいつも合流して取られかけたってほんと?」
その言葉を聞いた瞬間嫌な記憶が脳内で再生される。
(水瀬の記憶)
あのころは嘉雅とまだ付き合ってそんなに経ってなかった。
瑠美ちゃんと遊ぶことになって、瑠美ちゃんが「今のうちに距離縮めておきな。うちも手伝うから。」と言って、嘉雅と井伊くんを誘ってくれて、嘉雅の弟のかい君も来ることになった。
まず、最初に行ったのは公園だった。
そこで美香ちゃんと遊んでいた夢村ちゃんに会って、一緒に遊ぶことになった。
夢村ちゃんは嘉雅の元カノだったことを知っていたうちは少し不安だった。
そんなうちに気づいた瑠美ちゃんが、嘉雅に何か言っていた。
今、思うとうちを不安にさせないよう言ってくれていたのかもしれない。
夢村ちゃんが合流して次はどこに行くかを話し合っていた時だった。
嘉雅、夢村ちゃん、瑠美ちゃん、うち、かい君、井伊くんと円になって話し合っていた。かい君が嘉雅がつけていたネックレスを取って自分につけていた。満足したのか、かい君は嘉雅にそれを返した。
嘉雅はそれをつけようとしているがうまくいかなかったのか、
「ごめん。誰かつけて~。」
と言った。
うちはつけてあげるべきなのか迷ってしまった。
場所的にも離れていて、ここで『つけてあげるよ。』なんて言ってグイグイいったら、引かれるかもしれない。と思っているうちに、
「つけてあげるから、貸して。自分でつけれないのになんでつけてきたの?」
と夢村ちゃんが言って、嘉雅からネックレスを受け取る。
「出る前は自分でつけれたんだよ。」
「あっそ。はい、できた。」
「ありがとう。」
そんなやり取りを見て、自分の胸が痛くて苦しくなっていくのを感じていた。
見ていられなくて、瑠美ちゃんに話をかけようと隣を向くと、瑠美ちゃんは少し怒った顔をして、
「あれだけ言ったのに、馬鹿か。」
とつぶやいていた。
瑠美ちゃんに話をかけるのをやめて、
話し合いに出ていたフフカでいいかをみんなに聞いた。
「フフカでいい?」
「「うん。いいよ~。」」
とみんなが賛成し、自転車に乗って、フフカに向かう。
フフカに着くまで、嘉雅たちの後ろで瑠美ちゃんと話しながら向かった。
「嘉雅、やっぱダメだわ~。」
と瑠美ちゃんが言い出す。
「水瀬の立場も考えずにさ。なんなの!夢村にも一応言ったんだよ。空気読めって。」
と切れ気味で言うので、
「ありがとう。瑠美ちゃん。大丈夫だよ。嘉雅が鈍感なのは前から知ってるから。」
「水瀬は優しすぎなの。」
と言ってるうちにフフカに着く。
フフカに着くとまず、ゲーセンに行くことになった。
ゲーセンの前のソファーで、飲み物を買いに行ったかい君を待つ。
井伊くんと夢村ちゃん、瑠美ちゃんが先に座る。うちと嘉雅が立っていると、井伊くんが
「嘉雅、座れよ。水瀬さんも。」
と言って、嘉雅の手を引いて座らせると井伊くんは立つ。
嘉雅が自然に夢村ちゃんの隣となる。
そして、夢村ちゃんが嘉雅に話かけ、2人が話し出す。
うちも瑠美ちゃんに手を引かれ座る。
横目で瑠美ちゃんは嘉雅たちを見て、
「ほんとに何なのあの2人!嘉雅もだけど、夢村も夢村だよ。空気読めって言ったら大体わかるでしょ⁉」
「っ~。もうなんなの。嘉雅もそろそろ分かれや。嘉雅、男子なんだから自分から水瀬に話しかけるとかさ。夢村より水瀬のほうがどう考えてもさ、性格神だし、よく周り見てるし、全てにおいて最高じゃん。」
「瑠美ちゃんありがとう。そんな風に思っててくれたの。すごいうれしい!」
「それに大丈夫だよ。しょうがないことなんだもん。夢村ちゃんは元カノで、付き合ってた時期も学校で話してた時間もうちより長いし、それに女子力高いし。」
「そうだけど…。いやじゃないの?てか、女子力は水瀬のほうが断然上な。」
「それは…。しょうがないから。さっき言ったでしょう。ありがとう心配してくれて。」
「優しすぎ…。」
そこに、
「ごめん。お待たせ!」
とかい君が帰ってきた。
その後は、瑠美ちゃんに言われたことをずっと考えていた。
本当は嫌じゃないと言ったら嘘になる。
すごく不安……。
本当は、もっとしゃべりたい、嘉雅と向き合いたい。
そんなことをずっと思っていた。だけど、いざ前にすると恥ずかしくて、素直になれなくて、しゃべりかけられなかった。
あの時、そんなことをして、うじうじしていたから…。

「お~い!大丈夫か?」
呼ばれていることに気づく。
「う、うん。大丈夫。そもそも、付き合ってなかったから。」
「はぁ?なに付き合ってなかったって。でも、本田がお前らが付き合ってたって。」
「えっ、美香ちゃんが…?」
うちが、そう聞くと男子は『ヤべッ!』という顔をした。
「ねぇ…」
「悪い、用事思い出した。」
と言って、席に逃げていく。
そうだったんだ…。向日と瑠美ちゃんにしか言ってないのにどこから情報が漏れたかと思ったら、美香ちゃん…。
あの時、バレたのが最後だったってこと…。
でも、信じたくないな…。
そう思いながら、廊下に出る。
ドンッ
誰かにぶつかってしまった。
「す、すいません。」
と言いながら、顔を上げると、
「あっ。水瀬じゃん!」
戸宇藤(とうどう)!?
戸宇藤はうちのトラウマになっている人物。
小学校の時に、殴られたり(小1・2)、変な噂を流されたり(小4)。
今でも怖くて話せない。
「そうだ!!水瀬、今度、遊ぼうぜ!」
と、ふいに手を握られ、反射的に振り払ってしまった。
「悪い、急に手、握って…。」
「え、あ。」
声が震える、手も震えてる。
「なぁ、遊ぼうぜ。俺は2人がいいけど、水瀬は誰かいたほうがいいだろう?」
ぎゅっと目をつむってしまう。
早く話さないと…。
でも声が出ない。
怖い…。
そう思ったとき、
ふわりと風が吹き、少し暗くなる。そして、ぎゅっと手を握られる。
あったかい…。
目を開けると、
「えっ…。」
嘉雅がうちをかばうようにうちと戸宇藤の間に入っていた。
「よう、戸宇藤!」
「嘉雅、邪魔すんな!俺は水瀬と話してんだ。」
無理…。話せない。
手がまた大きく震えだす。
嘉雅の握る力が強くなる。
「ふ~ん。僕も混ぜて!」
と嘉雅が言う。
「なんでだよ!どけろ。」
と戸宇藤が嘉雅を押しのけようとした時、
グイッと腕を引かれる。
「えっ…。」
そして、嘉雅が走り出す。
「行くぞ!」
と無邪気な笑顔を見せて言う。
そんな顔見せないでよ。
また、好きが募るから…。
嘉雅の背中を見ながら思う。
「おい!待てよ!」
戸宇藤の声がしたような?
追いかけてきてる?
心臓の音で分かんないよ。


-見てしまう【side響斗】-
廊下を歩いているとA組のドアから見える姿。
ほんとはまだ好きなのに…。
自分が終わらせたのに…。
でも、ちゃんと真実を伝えて終わらす。
僕の元カノ、水瀬 梅優美(みずせ つゆみ)は僕の好きな人。

「そういえば、昨日ね、嘉雅とバーベキューしたんよ!」
ニコリと笑って水瀬に向かって本田が言っている。
「そうなん?美味しかった?」
絶対にわざとだな……今の。
本田とは親同士の仲がよく、幼なじみみたいな感じだ。
あいつのせいで壊された水瀬との関係。俺が情けないのもあるが。代議員だった水瀬は男子から頼られていた。男子を取られたと思った本田は、俺にとんでもないこと言った。
だから、卒業までに水瀬に明かす。
「美香ちゃん、もうチャイム鳴っちゃう。」
「ほんとだ、バイバイ~。」
「うん。また。」
と話している2人の前を友達と話しながら、前を通った。
「響斗~。」
本田が作ったかわいい声で名前を呼んで駆け寄っている。
水瀬がいるのに。
っ、苦しい…。
水瀬はつらそうな顔で本田に手を振る。
五時間目が終わって廊下で友達と話していると、
ドンッ
誰かと誰かがぶつかった音がして、音がしたほうを見ると、
「す、すいません。」
と言う水瀬の姿があった。
「あっ。水瀬じゃん!」
水瀬にぶつかったのは、戸宇藤だった。
噂では水瀬のトラウマ人物らしい。
小学校の時に、殴られたり、変な噂を流されたりしたとか。
今でも怖くて話せない、と聞いたことがある。
心配で様子を見ていると、
「そうだ!!水瀬、今度、遊ぼうぜ!」
と、ふいに戸宇藤が水瀬の手を握っていた。
水瀬はその手を振り払っていた。
「悪い、急に手、握って…。」
「え、あ。」
水瀬の声が震えてる、手も震えてる。
「なぁ、遊ぼうぜ。俺は2人がいいけど、水瀬は誰かいたほうがいいだろう?」
水瀬に顔を近づけながら話を進める戸宇藤。
水瀬は、ぎゅっと目をつむっている。
怖いんだ。
助けないと…。
と思うと、勝手に体が動いていた。
水瀬をかばうように2人の間に入る。
そして、水瀬の手を握る。
あったかい…。
「えっ…。」
水瀬は驚いたのか、声を出す。
「よう、戸宇藤!」
「嘉雅、邪魔すんな!俺は水瀬と話してんだ。」
水瀬の手がまた大きく震えだす。
嫌だね。水瀬怖がってるし、話させない。
それにこいつ、絶対に水瀬を狙ってる。
水瀬の手を握る力が自然と強くなる。
「ふ~ん。僕も混ぜて!」
そう言うと、
「なんでだよ!どけろ。」
と戸宇藤が僕を押しのけようとした。
グイッと水瀬の腕を引く。
「えっ…。」
と水瀬の声がする。
そして、水瀬の手を握ったまま走り出す。
「行くぞ!」
と笑顔で水瀬に言う。
水瀬は、驚いたように、少し赤くなった顔を僕に向けてる。
そんな、顔見せないでよ。
また、好きが募るから…。
水瀬の顔を見ながら思う。
「おい!待てよ!」
戸宇藤の声がした。追いかけてきてる。
やばい!
前を向いて、水瀬の手を握って走る。


-意地悪?-
嘉雅に腕を引かれたまま、空き教室に入る。
「あいつらどこ行ったんだ?」
戸宇藤の声が教室の外で聞こえた。
よかった。振り切れたんだ。
うん?まだ手があったかい?
手、手…。
手のほうを見る。
ああああああああ!
「手~⁉」
と叫んだとき、嘉雅の手を握る力を強めて、
「手?手がどうかしたか?」
といたずらっ子のような笑顔を見せて聞いてくる。
手がどうかした?じゃないのよ!
「えっと、手を…」
と言いかけたとき
ガラガラッ
空き教室のドアが開く。
「いた~!」
そこに入ってきたのは、戸宇藤だった。
戸宇藤⁉
やばい。見つかった!
「嘉雅。お前、水瀬に何してんだよ。お前の彼女じゃないだろ!」
ズキッ
そうだよ。うちは嘉雅の彼女じゃない…。
「そうだ…」
うちが言い終わらないうちに、
「僕の彼女でもそうでなくても、戸宇藤には関係ないよ。」
と嘉雅が言う。
嘉雅、バカ!微妙に喧嘩売ってるし、誤解されるよ~。
「なんだよそれ!関係あるだろ!俺と水瀬が話してるのに、割り込んできたと思ったら、水瀬を引っ張って、走るし…。」
関係はないとは思うんだけど?
「関係ないよ。それに、困ってた人がいたら普通は助ける。」
はっきりと嘉雅が言う。
困ってた人か…。相変わらずだよね。
「確かに、俺は水瀬に好かれてないし、ビビられてる…。俺がこいつにやってきたことは最低だよ。わかってんだよそんなこと!でも、水瀬と初めて会った頃みたいに話したい…。」
えっ、そんなこと思ってたんだ。
「そうだよ。最低だ。でも仲良くしたいからって、一方的に自分の気持ちを押し付けたって変わらないよ。ましてや、怖い思いをしてる人に。」
嘉雅…。
「そうだよな…。」
ふと、時計を見ると、
「あ~!2人ともそこまで!授業始まってるよ!」
「「やっべ。」」
と嘉雅と戸宇藤が言う。
どうしよう…。
「サボるか。疲れたし。」
と戸宇藤が言う。
えええええっ!サボるの⁈
「だな。」
「だな。じゃない!」
うちの立場も考えずに!
「最低なのは、僕、だよな…。」
「うん?なんか言った?」
よく聞こえなかったのでそう聞いた。
うちには、嘉雅の言葉は届いていなかった。
「なにもないよ。今日は、HRしたら帰るし、サボろ。ね?」
かわいい…。おねだりは反則な。
「それは反則でしょ…。」
つい、本音が口に。
「ふふっ、うん?なんか言った?」
嘉雅は少し笑って言った。
なんで笑ったんだろう?
「しょうがないなぁ。生徒会なのに…。」
「いいじゃん!いつも頑張ってるんだから。」
「でも…」
「ね?」
「うん…。」
幸せ…。このまま時間が止まればいいのに。


-反則【side 響斗】-
水瀬の腕を引いて走り、空き教室に入る。
「あいつらどこ行ったんだ?」
戸宇藤の声教室の外で聞こえた。
よかった。振り切れたんだ。
手のほうを見る。
勢いで手を握ってしまった。
手、小さくてかわいい…。
「手~⁉」
と水瀬が叫んだ。僕は手を握る力を強めて、
「手?手がどうかしたか?」
と聞く。
かわいいなぁ。
「えっと、手を…」
と水瀬が言いかけたとき、
ガラガラッ
空き教室のドアが開く。
「いた~!」
そこに入ってきたのは、戸宇藤だった。
やばい。見つかった!
「嘉雅。お前、水瀬に何してんだよ。お前の彼女じゃないだろ!」
ズキッ
そうだよ。水瀬は僕の彼女じゃない…。
「そうだ…」
水瀬が何かを言おうとしたのを遮って、
「僕の彼女でもそうでなくても、戸宇藤には関係ないよ。」
と言う。
さっき、水瀬は『そうだよ。』っていうつもりだったんだと思う。
「なんだよそれ!関係あるだろ!俺と水瀬が話してるのに、割り込んできたと思ったら、水瀬を引っ張って、走るし…。」
やっぱり…こいつ水瀬のこと好きなんじゃん…。
誤解されていい。これでいい。
「関係ないよ。それに、困ってた人がいたら普通は助ける。」
そう、戸宇藤には、関係ない。
「確かに、俺は水瀬に好かれてないし、ビビられてる…。俺がこいつにやってきたことは最低だよ。わかってんだよそんなこと!でも、水瀬と小1の初めの頃みたいに話したい…。」
なんだよそれ。自分勝手すぎるだろ…。
「そうだよ。最低だ。でも仲良くしたいからって、一方的に自分の気持ちを押し付けたって変わらないよ。ましてや、怖い思いをしてる人に。」
って、最低なのは、僕もか。
「そうだよな…。」
そのとき、
「あ~!2人ともそこまで!授業始まってるよ!」
と水瀬が叫んだ。
時計を見ると、授業が始まっていた。
「「やっべ。」」
僕と戸宇藤が言う。
どうしよう…。
「サボるか。疲れたし。」
と戸宇藤が言う。
「だな。」
水瀬は生徒会だけど、このまま一緒にいたいし。
「だな。じゃない!」
と水瀬が膨れて言う。
かわいい…。
「最低なのは、僕、だよな…。」
ずっと思っていた本音がつい口に出た。
「うん?なんか言った?」
水瀬には、その言葉は届いていなかった。
「なにもないよ。今日は、HRしたら帰るし、サボろ。ね?」
お願い!うん。って言って。
「それは反則でしょ…。」
と水瀬は言う。
かわいい…。
聞こえてなかったことにしよう。
「ふふっ、うん?なんか言った?」
かわいくて、笑みがこぼれてしまった。
「しょうがないなぁ。生徒会なのに…。」
水瀬が言う。
やった!
「いいじゃん!いつも頑張ってるんだから。」
「でも…」
「ね?」
「うん…。」
幸せ…。このまま時間が止まればいいのに。


-約束してくれる?-
気まずい…。
嘉雅と戸宇藤に挟まれている…。
そして、1人はスヤスヤ寝ている。
「かわいい…。」
つい、本音が…。
「今、嘉雅を見て言ったよな…。」
と戸宇藤が言ってくる。
やばい…。
やっぱり怖くて、首を横に振る。
「まだ、俺のこと怖い?てか、怖いよな…。」
怖いのは事実。
言わなきゃ。
ここで変わらないと…。
ぎゅっ
えっ…。
嘉雅がうちを見て、微笑んで手を握ってくれる。
そして、
「大丈夫。」
と口を動かし、また眠った。
「こ、こ、わ、いよ。ちょっとだけ…。」
と力を振り絞って言う。
戸宇藤は、目を見開き、そのあと切なそうに、嬉しそうな顔をして微笑んだ。
「そっか。ありがとう、話してくれて。」
「ご、ごめんね。」
「いいよ。水瀬が謝ることない。」
こんなに優しかったんだ。
嘉雅、ありがとう。勇気をくれて。
そのあと、沈黙が続き、戸宇藤はいつのまにか眠っていた。
「う~ん。」
と声がした。
「おはよう。嘉雅。」
「おはよう…。」
嘉雅が起きたのだ。
「あのさ、よかったね。ちゃんと言えて。」
「う、うん。」
気まずい…。
「あのさ、そのさ、今度、2人でどっか行かない?」
「えっ…。」
今、なんて…。
「あの、よかったらだけど…。」
元カレと2人ってどうなの?
でも…。
「う、うん。」
最後だけ。
嘉雅と過ごす時間を…。
「本当⁉…ごめん、自分が誘ったんだけど、明後日はかい君と出かける約束してて…。明日でもいい?」
仲いいなぁ。相変わらず。
「うん。いいよ。」
「じゃあ、図書館前に…11時ぐらいでいい?」
「うん。いいよ。」
どこ行くんだろう?
「どこ行くの?」
「公園行って、買い物行こうかな。」
公園か…。
「いいね!昼ご飯はどうする?」
どうくる?
「そうだな…。弁当作ってもらうかな。」
お母さんに⁈仕事あるでしょ。
「うちもそうしようかな。あっ!嘉雅の分も作ってこようか?」
親切心で言った自分の言葉に後悔する。
なに言ってんのうち⁉
思わず口走ってしまう。
「いいの?じゃあ、お願いします。」
えええええ⁉「お願いします。」って断れないじゃん!
「わ、わかった。」
どうしよう…。なに作ろう。
「約束ね。」
「うん。」
約束…。


-約束【side 響斗】-
僕は、眠たくなって寝てしまう。
不満なのは、戸宇藤の隣に水瀬が座っていること。
「かわいい…。」
という水瀬の声。
水瀬の声?
なにか話してる。
目が覚めてしまった僕は、寝たふりをして2人の話を聞く。
「まだ、俺のこと怖い?てか、怖いよな…。」
その言葉を聞いて、水瀬はなにかを言いたそうにしていた。
水瀬を見て、手を握る。
水瀬は少し目を見開き、こっちを向く。
微笑んで、「大丈夫。」
と口を動かし、また目をつむった。
「こ、こ、わ、いよ。ちょっとだけ…。」
と言っている。
すごいなぁ。水瀬は…。
とそこで僕は眠ってしまった。
「う~ん。」
目が覚める。
起きると、隣にいる水瀬が笑って、
「おはよう。嘉雅。」
「おはよう…。」
起きたら、水瀬が隣にいる…。
幸せすぎないか…?
「あのさ、よかったね。ちゃんと言えて。」
「う、うん。」
えらすぎ…。すごいよ。
最後だけ。
水瀬と過ごす時間を。
気持ちがあふれて、
「あのさ、そのさ、今度、2人でどっか行かない?」
「えっ…。」
今、僕はなんて言った?
ごまかそうとして、
「あの、よかったらだけど…。」
元カノと2人ってどうなの?
「う、うん。」
えっ。いいの…?
「本当⁉…ごめん、自分が誘ったんだけど、明後日はかい君と出かける約束してて…。明日でもいい?」
なにも考えずに、バカ……。
「うん。いいよ。」
「じゃあ、図書館前に…11時ぐらいでいい?」
「うん。いいよ。」
長く一緒にいたくて、つい、早めの時間を言ってしまう。
「どこ行くの?」
「公園行って、買い物行こうかな。」
服選んでほしいなぁ…。
「いいね!昼ご飯はどうする?」
そうだ昼ご飯!
「そうだな…。弁当作ってもらうかな。」
本当は水瀬が作った弁当を食べたい…。
「うちもそうしようかな。嘉雅の分も作ってこようか?」
ウソ⁈やった!!
「いいの?じゃあ、お願いします。」
「わ、わかった。」
「約束ね。」
「うん。」
約束…。


―強い?―
チャイムが鳴る。
戸宇藤を起こす。
「俺が先生に説明するから。」
と嘉雅が言う。
大丈夫かな…。
教室に帰ったとき、
先生が廊下に心配そうな顔をして立っていた。
「水瀬ちゃん、嘉雅、戸宇藤!」
「先生…。」
うちの担任の先生がうちらを見て、声を上げる。
「どこにいたの?先生何人かに探してもらったけど、見つからないから心配したよ…。」
先生は涙目で言った。
「ごめんなさい…。」
「すいません。水瀬は何にも悪くないんです。」
と嘉雅が言う。
「どういうこと?」
「水瀬は戸宇藤と話すのが苦手で、でも、話さないといけない状況になってしまって…。話せなくて、それを見た僕が2人の間に入ったんです。それで僕が手を引いて、走って逃げたんです…。」
と困ったように話す。
「でも、戻ってこれたでしょ?」
「それが、水瀬、体調が悪かったみたいで…。走って空き教室に入ったら、意識失っちゃって。」
「えっ、そうなの?」
「そうなんです…。俺が2人見つけたとき、嘉雅が心配そうにしてて…。誰か呼ぶにも遠いいから、2人で水瀬についてたんです。」
そんな漫画みたいな言い訳が通用するか!
「ほんとだ。水瀬ちゃん、顔色がちょっと悪いかも…。」
先生、騙されてますって。
でも、それって、すごい心配してくれてるんだよね…。
「ありがとう。2人とも…。」
「よし!帰りの支度して帰ろう!!」
先生が言う。
先生に挨拶をして帰る。


-帰り道-
「水瀬、いた~!」
「美香ちゃん⁉」
「一緒に帰ろう!」
「うん。いいよ。」
美香ちゃんにさっきの出来事はバレたらいけない…。
「あっ!響斗~。それに、井伊も!」
「おう。本田。」
美香ちゃんが井伊くんたちに声をかける。
「ねぇ、一緒に帰ろう。」
「「いいぜ。」」
井伊くんと嘉雅が言う。
「じゃあ、うちは帰るね。」
と美香ちゃんに小声で言う。
「ダメだよ~。水瀬も一緒に帰るの~!」
と大きな声で言った。
「えっ、でも…。」
「いいよね?2人とも。」
と2人に意味深な笑顔を見せて言う。
「でも…」
と井伊くんの言葉を遮り、
「いいの。ねぇ~、水瀬。よっし!帰ろう。」
とうちの返事も聞かずに進んで行く美香ちゃん。
3人で美香ちゃんについて帰る。
少し進んだところで、
「ねぇ、水瀬。今日は、五時間目が終わったあと、響斗とどこに行ってたの?戸宇藤も追いかけてたけど。」
「えっ…。あの後、分かれて、うちは保健室に行ったよ。」
「そうなの?響斗も帰ってこなかったし、戸宇藤も帰ってこなかったって聞いたから…一緒にいたのかと思って。」
噓をついた…。
本当は一緒にいた。
「響斗と話してくるね!」
「う、うん。」
いつも、うちに向けてくる笑顔は、
『響斗の一番は、私だよ。』
という笑顔に見えていた…。
それは、当たっていたのかもしれない。

(水瀬の記憶)
「今度ね、ネクタイプリ撮るの!」
「そうなんだ。誰に借りるん?」
美香ちゃんは嬉しそうに、
「うんとね~、秘密。」
と言ってごまかしてくる。
ネクタイを借りた美香ちゃんが戻ってくる。
「見て、響斗に借りた!」
「そうなんだ…。」
ズキッ
まだ、大丈夫…。
嫌だけど、まだ…。
「いいでしょう~!」
とニッコリ笑って言ってくる。
うちはそれがトラウマになった。

「気になる?2人のこと。」
えっ。
隣を見ると井伊くんがいた。
「えっと…。」
「いいんじゃない?まだ好きなんでしょ。」
バ、バレてる…。
「よく見てあげて。嘉雅の気持ちに向き合ってあげてよ。」
えっ…。それはどういう意味?
「ねぇ、それどういう…」
うちが聞き終わらないうちに、
「嘉雅~!」
と行ってしまった。


-帰る日【side響斗】-
「水瀬、いた~!」
「美香ちゃん⁉」
「一緒に帰ろう!」
「うん。いいよ。」
水瀬に声をかける本田の姿があった。
本田にさっきの出来事はバレたらいけない…。
「あっ!響斗~。それに、井伊も!」
「おう。本田。」
本田が僕たちに声をかける。
「ねぇ、一緒に帰ろうや。」
「「いいぜ。」」
井伊くんと僕が言う。
「じゃあ、うちは帰るね。」
と水瀬が小声で言う。
「ダメだよ~。水瀬も一緒に帰るの~!」
と大きな声で言った。
「えっ、でも…。」
「いいよね?2人とも。」
と僕に意味深な笑顔を見せて言う。
「でも…」
と井伊の言葉を遮り、
「いいの。ねぇ~、水瀬。よっし!帰ろう。」
と水瀬の返事も聞かずに進んで行く本田。
3人で本田について帰る。
少し進んだところで、
「ねぇ、水瀬。今日は、五時間目が終わったあと、響斗とどこに行ってたの?戸宇藤も追いかけてたけど。」
「えっ…。あの後、分かれて、うちは保健室に行ってたよ。」
「そうなの?響斗も帰ってこなかったし、戸宇藤も帰ってこなかったって聞いたから…一緒にいたのかと思って。」
と水瀬に本田が言う。
やばい、バレる…。
嘘つくときの癖、出てないから…まだ大丈夫か…。
「響斗と話してくるね!」
「う、うん。」
いつも、本田が水瀬に向ける笑顔は、
『響斗の一番は、私だよ。』
という笑顔だった…。

(嘉雅の記憶)
「今度ね、ネクタイプリ撮るの!」
「そうなんだ。誰に借りるん?」
本田は嬉しそうに、
「うんとね~、秘密。」
と言ってごまかしている。
「ねぇ、響斗。ネクタイ、貨して。」
「えっ、なに急に…。」
「今度、ネクタイプリ撮るから。響斗ぐらいしか借りれる人いないから。」
絶対いるって!
「いいじゃん!はい。いただき~!」
「おい。」
「日曜日に返しに行くから!」
はぁ…。
なんだよそれ。
と思っていると、
「見て、響斗に借りた!」
「そうなんだ…。」
ズキッ
なんで、水瀬にそんなこと言うだよ…。
「いいでしょう~!」
とニッコリ笑って言ってくる。
なんだよ。

「響斗、聞いてる?」
隣を見ると、本田が膨れていた。
「えっ。悪い…聞いてなかった。」
「はぁ…。ちゃんと聞いてよ。」
「おう…。」
「ねぇ、授業の時どこにいた?」
「保健室に行って、職員室でちょっと話してた。」
「ふん~。水瀬いた?」
「どうだろう…。いたのかもな。カーテンが1つだけ閉まってたから。」
まだ、バレてないよな…。
「響斗、復縁してないよね?」
「はぁ?誰と?」
「水瀬と。」
なんだよ。
僕は…。
「してないよ。」
「ならいいけど…。」
「したら、わかって…」
「わかってる。」
本田が言い終わらないうちに言う
「ならいいけど。頭の隅にちゃんと置いとかないと。」
なに言いなりになってんだよ!
情けねぇ…。
「嘉雅~!」
そこにちょうど井伊が来る。


-お出かけ-
今日は、嘉雅と出かける日。
昨日はなにを着ようか迷った挙句、いつものお気に入りの服で行くことにした。
夜は寝れず、少し?いや、めちゃくちゃ寝不足。
「よし!問題なし。」
「髪型OK。お弁当、財布も持った。」
「いってきます。」
楽しみ~!!
集合場所の図書館まで家から歩きでそんなにかからないのに、早めに出てしまった。
腕時計を見ると、あと20分もある。
あと、20分…。
でも、この時間が楽しいんだけどね!
自分の本棚にある本に、
「待ち合わせで、先に着いてるほうが惹かれている」
と書いてあった。
ほんとなんだな…。
まっ、デートじゃないけど…。
「お~い!」
声が聞こえて振り向くと、嘉雅がいた。
駆け寄ってきて、
「ごめんっ。遅れた。待ったよな。」
えええええ!
腕時計を見ると、まだ10分もある。
こんなに早く来るとは、
「ま、待ってないよ。それに、集合時間まであと10分もあるし、遅れてないから!」
やばいよ~。
かっこよすぎ…。
いつもよりカッコよさがましてない⁉
「どうした?なんかついてる?」
つい、見とれていた…。
「いや、ついてないよ。その~、なんと言いますか…カ、カッコイイなと思いまして…。」
言ってしまった…。
絶対に引かれた…。
「ありがとう!嬉しい。」
えっ。いやいや、褒めてくれてって意味だよ。
「ふふ。」
えっ。
「な、なに?どっかおかしい?」
うちが自分の服を見返す。
なにもおかしいところはない…。
髪型?
髪を触ろうと、腕を上げると、
「うんん。おかしいところはないよ。むしろ…か、かわいい…。」
嘉雅はうちの腕をやさしくつかんだまま、笑顔で言う。
っ~。
かわいい…。
かわいい⁈かわいいって言った?
恥ずかしくて、嬉しくて。
「そんなことはないです。」
「そんなことはあるよ。」
「てか、なぜに敬語?かわいい…。」
っ~///
かわいいってなに?
心臓がもたない…。
相変わらずのこの鈍感さと天然さといったら。
今日は、心臓がもたなさそう…。
と、
「お兄ちゃん、行くの早いよ。」
かい君?
2人きりじゃなかったんだ…。
そりゃそうか…。
「ごめんっ。かい君に今日、出かけることバレて…。ついてくるってうるさくて…。」
「気づかれないように出てきたんだけど…。バレたか。」
「ふふ。そうだったんだね。」
仲いいなぁ。
「だって、お兄ちゃんに誰と出かけるのか聞いても、『嫌だ』と『教えない』の一点張りだったじゃん。でも、相手が水瀬なら納得。」
一点張り…。
「やっぱりついてきて正解だわ。」
「えっ、なんで?」
ついてきても楽しくないと思うんだけど…。
「だって、水瀬といれるんだよ?最高じゃん。」
最高?
「……最高?」
「うん。最高。」
「てか、名前覚えてくれてたんだ。」
「うん。当たり前。」
よかった。覚えてもらえてて…。
「はーい。そこまで!」
「え~。なに?」
「かい君、近すぎだろ。離れて話さないと困るだろ。」
と嘉雅が言う。
「誰が困るんですか~?」
「そ、それは…。流れからしてわかれ!」
「はいそこまで!」
と2人の間に割って入る。
「悪い…。」
そんな顔しないで…。
「お兄ちゃんって、絶対に水瀬の名前、呼ばないよね?」
なんて質問を
「え~。そんなの普通だよ。」
「そうなの?お兄ちゃんって誰にでもそうなの…。」
「誰にでもって、わけじゃなくて…女子にはそうかな?」
いや、うちだけです…。
「ふ~ん。前になんかあったのかと思って。そうじゃないんだ…。」
なにその鋭さは⁉
バレてた?付き合ってたの……。
「弁当作ってきてくれたのに……。僕だけで味わえると…。」
あっ!足りないと思ってるのか!
「お弁当のことは気にしないで!嘉雅がどれぐらい食べるか分からなかったから、少し多めに作ったから。」
多めに作ってきてよかった…。
「弁当作ってきてくれたの⁉お兄ちゃん、水瀬の手作り弁当独り占めしようとしてたでしょ!!」
嘉雅の顔を見ると、
『バレた』
という顔をしていた。
えっと…それはどういう感情?
「あー。もう!うるさい!」
「なにがですか~?兄弟として見た感じの感想を言っただけど?」
「あっそ。」
「あっそってなに?気にしてたくせにさ。」
「かい君、調子乗りすぎだ!」
きょ、兄弟喧嘩…。
「2人ともわかったから。なにが原因かわかんないけどやめよ…。」
うちが止めに入る。
「ご、ごめん。」
「怒んないで水瀬…。」
「怒ってないよ。」
でもビックリした…。
喧嘩なんてしないぐらいすごい仲いい兄弟だと思ってたから…。
「なら、よかった。」
「う、うん。」
「よし!公園に行こう~。」
お、おーう?
かい君が元気よく言う。
バスで公園に向かう。
公園に着いて、少し歩く。
「お弁当どこで食べようか。」
「人が少ないところがいいよね~。」
とかい君が言う。
「僕、穴場知ってるよ。人も少ないし、眺めもきれいだし…。」
「なにそれ⁉俺には教えたことないのに!!」
「でも、かい君がいるからな~。」
と嘉雅が言う。
「そんなにかい君に知られたくないの?」
「うん。」
なんで知られたくないのかな?
ブウブウブウッ
嘉雅の携帯が鳴る。
「ママ⁉」
嘉雅のお母さんから…
「ごめん。電話出てくる。」
「うん。大丈夫。」
「もしもし、うん。いるよ。」
なに話してるんだろう?
予定があったのかな?
「菜野運動公園にいるよ。うん。わかった。」
電話が終わったのか、嘉雅がこっちに走ってくる。
「ごめん。」
「大丈夫だよ。」
「かい君、ママが迎えに来るって。」
えっ。
「なんでだよ。今日は、なにもないだろう。」
かい君がキレる。
「パ、パパがかい君に会いに来たって…。」
お、お父さん⁉
「なんで…。なら、お兄ちゃんも!」
「僕は、こないだ会ったし…。それに…。」
それになに?
「それになんだよ!答えろよ!なぁ。」
「僕じゃダメなんだ…。かい君じゃないと…。」
「なんだよそれ…。」
なんかあるのかな…?
かい君は、すごく悔しそうな顔をしている。
「かい君~。お兄ちゃん~。」
と笑顔で呼んでいる女の人がいた。
「ママ…。」
「…。」
2人ともすごくつらそうだった。
「かい君、行こう。」
「嫌だ。なんで?お兄ちゃんは…。」
「お兄ちゃんはこないだ会ったから。」
嘉雅たちは、お母さんが嫌なんじゃなくて、お父さんが嫌なのかな?
「あら、こんにちは!響斗と響櫂の母の杏です。」
「こ、こんにちは。はじめまして、水瀬梅優美と言います。」
嘉雅のお母さん、すごいかわいいし、きれい…。
「もしかして、お兄ちゃんの彼女さん?」
か、彼女⁉
ないです。絶対にないです。
「違うよ。お兄ちゃんに水瀬はすごく、すご~く、もったいない。」
とかい君が言う。
「彼女ではないけど…もったいないのもそうだけど…。」
「ほらみろ、認めた~。」
あぁ、また始まる?
「うるさいなぁ。そりゃあ、もったいないよ。」
「うんん。優しいし。」
とかい君が頷く。
「そう。それに、自分より他人が優先で人のこと助けるし、友達の相談も自分のことかのように悩んでくれるし…。あいさつは気持ちいいし、周りをよく見てて、性格神で…まだまだあるけどね。」
な、なにそれ。
恥っ///…
下を向いていると…
「なんと言っても…」
まだあるの?
心臓が持たないよ…。
「笑顔がキラキラで太陽みたいでかわいくて、パワーをもらえる。」
っ~。
無理無理、倒れる~!
「そ、そのへんで、ス、スト~ップ!」
「え~。なんで?」
かい君が残念そうな顔で言う。
なんで?
恥ずかしいから!
「な、なんでも…。」
「ふふ。こんなにいい子が友達なんて母親としてうれしいわ。」
「い、いい子なんて、無縁の言葉ですよ…。」
「そうかしら?2人がこんなにも大切にしているんだから。いい子よ。」
いい子…。
「また、一緒に遊んであげて。私ももっとお話したいし。」
「は、はい。」
「じゃあ、かい君いくよ。」
とかい君を連れていく。
「えっ。ま、待って。」
「またね!梅優美ちゃん。」
「もう。またね、水瀬!」
「うん。またね~。」
かい君がいない…。
嘉雅と本当に2人きりになっちゃった…。
どうしよう…。


-お出かけ【side 響斗】-
昨日はなにを着ようか迷った挙句、いつものお気に入りの服で行くことにした。
夜は寝れず、少し?いや、めちゃくちゃ寝不足。
「よし!問題なし。」
「財布も持った。」
「いってきます。」
楽しみ~!!
集合場所の図書館まで家から歩きでそんなにかからないのに、早めに出てしまった。
「お~い!」
水瀬の姿が見えて、声をかける。
駆け寄って、
「ごめんっ。遅れた。待ったよな。」
腕時計を見ると、まだ10分もある。
こんなに早く来るとは、
「ま、待ってないよ。それに、集合時間まであと10分もあるし、遅れてないから!」
やばいよ。
かわいい…。
いつもよりかわいさがましてない⁉
「どうした?なんかついてる?」
じっと見られていたので聞くと、
「いや、ついてないよ。その~、なんと言いますか…カ、カッコイイなと思いまして…。」
水瀬が恥ずかしそうにもじもじして言う。
「ありがとう!嬉しい。」
水瀬に褒められた!!
「ふふ。」
かわいくて、つい笑ってしまう。
「な、なに?どっかおかしい?」
水瀬が自分の服を見返す。
なにもおかしいところなんてない。
水瀬が髪を直そうと、腕を上げた。
「うんん。おかしいところはないよ。むしろ…か、かわいい…。」
水瀬の腕をやさしく掴んで、笑顔で言う。
恥ずかしかったのか下を向く水瀬。
っ~。
かわいい…。
「そんなことはないです。」
「そんなことはあるよ。」
「てか、なぜに敬語?かわいい…。」
敬語、かわいい…。
心臓がもたない…。
相変わらずのこの鈍感さ。
今日は、心臓がもたなさそう…。
と、
「お兄ちゃん、行くの早いよ。」
かい君?
クソッ。
バレた。
「ごめんっ。かい君に今日、出かけることバレて…。ついてくるってうるさくて…。」
「気づかれないように出てきたんだけど…。バレたか。」
「ふふ。そうだったんだね。」
優しく受け入れてくれる。
「だって、お兄ちゃんに誰と出かけるのか聞いても、『嫌だ』と『教えない』の一点張りだったじゃん。でも、相手が水瀬なら納得。」
そりゃそうだ。
「やっぱりついてきて正解だわ。」
「えっ、なんで?」
ついてこなくていいのに…。
「だって、水瀬といれるんだよ?最高じゃん。」
かい君の好きな人って、やっぱり…。
「……最高?」
「うん。最高。」
「てか、名前覚えてくれてたんだ。」
「うん。当たり前。」
年下の可愛さを使って~!
「はーい。そこまで!」
「え~。なに?」
「かい君、近すぎだろ。離れて話さないと困るだろ。」
これ、嫉妬だよなぁ。
「誰が困るんですか~?」
「そ、それは…。流れからしてわかれ!」
僕だよ。
「はいそこまで!」
と水瀬が僕とかい君の間に割って入る。
「悪い…。」
そんな顔しないで…。
「お兄ちゃんって、絶対に水瀬の名前、呼ばないよね?」
なんて質問を…。
「え~。そんなの普通だよ。」
「そうなの?お兄ちゃんって誰にでもそうなの…。」
「誰にでもって、わけじゃなくて…女子にはそうかな?」
本当は、水瀬の名前を呼びたい…。
「ふ~ん。前になんかあったのかと思って。そうじゃないんだ…。」
なんだその鋭さは⁉
バレてたか?付き合ってたの……。
「弁当作ってきてくれたのに……。僕だけで味わえると…。」
水瀬が作った弁当を独り占めできると思ったのに…。
「お弁当のことは気にしないで!嘉雅がどれぐらい食べるか分からなかったから、少し多めに作ったから。」
かい君に食べさせたくないなぁ。
「弁当作ってきてくれたの⁉お兄ちゃん、水瀬の手作り弁当独り占めしようとしてたでしょ!!」
『バレた』
と顔に出してしまった。
「あー。もう!うるさい!」
「なにがですか~?兄弟として見た感じの感想を言っただけど?」
「あっそ。」
「あっそってなに?気にしてたくせにさ。」
かい君、調子に乗って‼
「かい君、調子乗りすぎだ!」
「2人ともわかったから。なにが原因かわかんないけどやめよ…。」
水瀬が止めに入る。
水瀬が困った顔をしていた。
「ご、ごめん…。」
「怒んないで水瀬…。」
「怒ってないよ。」
そんなんで、水瀬が怒るわけないだろ!
「なら、よかった。」
「う、うん。」
「よし!公園に行こう~。」
かい君が元気よく言う。
なんでかい君が進めてんだぁ!
バスで公園に向かう。
公園に着いて、少し歩く。
「お弁当どこで食べようか。」
「人が少ないところがいいよね~。」
とかい君が言う。
「僕、穴場知ってるよ。人も少ないし、眺めもきれいだし…。」
かい君には教えたくない。
「なにそれ⁉俺には教えたことないのに!!」
「でも、かい君がいるからな~。」
「そんなにかい君に知られたくないの?」
「うん。」
水瀬に一番最初に見せてあげたかったから。
ブウブウブウッ
携帯が鳴る。
「ママ⁉」
なんで?
「ごめん。電話出てくる。」
「うん。大丈夫。」
「もしもし…」
『もしもし。かい君、一緒にいる?』
「うん。いるよ。」
『パパがかい君に会いに来たの。今、どこにいる?』
「菜野運動公園にいるよ。」
『わかった。迎えに行くわ。』
「うん。わかった。」
電話が終わって、水瀬たちの方に走って行く。
「ごめん。」
「大丈夫だよ。」
「かい君、ママが迎えに来るって。」
「なんでだよ。今日は、なにもないだろう。」
かい君がキレてしまった。
「パ、パパがかい君に会いに来たって…。」
「なんで…。なら、お兄ちゃんも!」
「僕は、こないだ会ったし…。それに…。」
ごめんな。かい君…。
「それになんだよ!答えろよ!なぁ。」
「僕じゃダメなんだ…。かい君じゃないと…。」
そう、僕じゃダメなんだよ…。
「なんだよそれ…。」
かい君は、すごく悔しそうな顔をしている。
「かい君~。水瀬~。」
と笑顔のママがいた。
「ママ…。」
「…。」
かい君の不機嫌はまだ直ってない。
「かい君、行こう。」
「嫌だ。なんで?お兄ちゃんは…。」
「お兄ちゃんはこないだ会ったから。」
ママは嫌いじゃない。優しくて、僕たち想いで…。パパも嫌いじゃない…。
けど…。
「あら、こんにちは!響斗と響櫂の母の杏です。」
ママが水瀬に気が付いて声をかける。
「こ、こんにちは。はじめまして、水瀬梅優美と言います。」
水瀬、緊張してる?
「もしかして、お兄ちゃんの彼女さん?」
ママ、なに言ってんの⁉
「違うよ。お兄ちゃんに水瀬はすごく、すご~く、もったいない。」
とかい君が言う。
「彼女ではないけど…もったいないのもそうだけど…。」
もったいないのはそうだけど…。
「ほらみろ、認めた~。」
なんだよ…。
「うるさいなぁ。そりゃあ、もったいないよ。」
もったいない。もったいなさすぎる…。
「うんん。優しいし。」
とかい君が頷く。
「そう。それに、自分より他人が優先で人のこと助けるし、友達の相談も自分のことかのように悩んでくれるし…。あいさつは気持ちいいし、周りをよく見てて、性格神で…まだまだあるけどね。」
まだまだある。
水瀬はなぜか下を向いている。
「なんと言っても…」
そうこれが一番好き…。
「笑顔がキラキラで太陽みたいでかわいくて、パワーをもらえる。」
と言うと、
「そ、そのへんで、ス、スト~ップ!」
横から水瀬がストップをかける。
「え~。なんで?」
かい君が残念そうな顔で言う。
「な、なんでも…。」
「ふふ。こんなにいい子が友達なんて母親としてうれしいわ。」
「い、いい子なんて、無縁の言葉ですよ…。」
いや、水瀬はいい子以上のいい子。
「そうかしら?2人がこんなにも大切にしているんだから。いい子よ。」
「また、一緒に遊んであげて。私ももっとお話したいし。」
「は、はい。」
かい君はなしでいい…。
「じゃあ、かい君いくよ。」
とかい君を連れていく。
「えっ。ま、待って。」
「またね!梅優美ちゃん。」
「もう。またね、水瀬!」
「うん。またね~。」
かい君が、いない。
ということは…
水瀬と本当に2人きり…。


-お弁当【side 響斗】-
俺の秘密の場所まで、水瀬を案内する。
「綺麗~。」
「空気も気持ちいい~。」
「よかった。」
喜んでもらえてよかった。
水瀬、さっきから何か気にしてる?
「あっ!ここから、夏まつりの花火とか見えるんじゃない?」
水瀬が目を輝かして言う。
気にしたことなかったけど、ここから見る花火すごっく綺麗だろうなぁ…。
「確かに…。」
「それに、なんかつらいこととかあったら、ここに来ると落ち着くよ…。あっ。でも、嘉雅の秘密の場所だもんね。」
と水瀬が笑って言う。
確かに秘密の場所だけど、前から水瀬と来たいと思ってたし…。
「うん。僕はつらいことがあったりすると来るんだ…ここに。」
「そっか…。」
やさしく、やわらかい声で言う。
でも、どこかつらそう…。
やっぱり水瀬、何か聞きたそう…。
パパのことだろう。
つらいこと…。
水瀬も抱え込む性格してるから、心配してくれてくれてるのかな?
って、自意識過剰!
「来ていいよ…。」
「えっ…」
「ここ、つらいことあったら来るといいよ。」
「嘉雅の秘密の場所なんでしょ?」
「そうだけど。ここは、僕だけの場所じゃないし…僕たちの秘密の場所だから。」
水瀬と自分を指さして言う。
「お腹、空いたな。」
「そ、そうだね!食べようか。」
ぼうっとしていたのか、びっくりした様子で答える水瀬。
そして、2人でレジャーシートを敷いて座る。
水瀬が離れて座り、お弁当をひろげる。
「うわ~。めっちゃ、おいしそう!!」
マジでおいしそう~!
「お口に合えばいいけど…。」
不安そうに言う。
「いただきます!」
卵焼きを取って口に運ぶ。
水瀬がうかがってくる。
「おいしいっ!やばっ。」
おいしすぎ!!
「本当?本当においしい?」
「うん。めちゃめちゃおいしい!!」
「いただきます。」
水瀬がサンドイッチと卵焼きを皿に取る。
やっぱり、なんか気にしてる…。
「なんでそんな遠くに座っとん?近くで一緒に食べたほうが、もっとおいしくなるのに…。」
「ほら。」
と隣の席をポンポンと叩く。
「う、うん。」
水瀬が隣に座る。
微妙な間ができる。
どうしよう…。
よっし。
「僕にさ、なんか聞きたいことあるんでしょ。」
「えっ…。なんで…?」
この反応は…
「心配してくれてるのわかるよ。パパのことでしょ? 」
「う、うん…。うちが首突っ込むことじゃないし…。」
そんなこと…。
「いいよ。聞いてくれれば、こっちも安心するし。」
水瀬が聞いてくれるだけで十分…。
「うちでいいの…?」
「うん。聞いてくれる?」
「う、うん。」
嬉しい…。
「パパはさ、会社のトップで、その会社の跡継ぎが僕で、かい君が副社長…。
だけど、会社を継ぐのは、自分じゃダメなんじゃないかって思ったんだ…。パパがママにかい君がいいなら、中学受験させたいって話してるの聞いちゃって…。そのあとも、かい君の将来の話ばっかりでさ……、パパが跡を継がせたいのは僕じゃなくって…、かい君なんだって…。」
水瀬は静かに聞いてくれた。
多分、僕は今、すごく弱くて…情けない顔をして話してるだろう。
「そっか…。うちがこんなこと言うのはおかしいってわかってるけど…」
水瀬が言い終わらないうちに僕は、
「言っていいよ。」
「う、うん。」
「今の嘉雅はさ、お父さんの気持ちが第一って感じじゃん。でも、お父さんが跡を継ぎなさいって言われて継ぐんじゃなくて、嘉雅が跡を継ぎたいかどうかが大切なんじゃない?」
僕は、ハッとした。
確かにそうだ…。僕はいつも…。
「うん。」
「嘉雅が今どうしたいか、どう思ってるのか、怖いかもしれないけど、そのままお父さんにぶつけてみたら?
『ちゃんと聞いて!』って。自分にちゃんと心があることは忘れちゃだめだよ…。」
水瀬自身がそういうことが得意じゃないからこそのアドバイスだと分かった。
「そうだよね…。ありがとう。聞いてくれて。」
「うんん。うちこそ、話してくれてありがとう。」
こっちが聞いてもらったのに…。
ありがとうって、こっちのセリフだ。
「また相談してもいい…?」
またって迷惑だろ‼
「うん。もちろん!」
えっ…。
いいの⁉
嬉しっ。
パンッ
と手をたたき、
「早く食べようぜ。」
と言って、サンドイッチをほおばる。
「うん。」
黙々と食べていく水瀬に対して、「おいしい!」と言って食べる僕。
おいしいすぎ!
「はぁ~。おいしかった。」
「もう食べたん?」
「うん。」
おいしすぎて、もう食べ終わったしまった…。
「デザート作ってきたけど食べる?」
デ、デザート⁈
「デザートまで作ってきてくれたん?食べる!」
「う、うん。おいしいかわからんけど…。」
と言いながら、水瀬がお弁当袋から出す。
「はい。」
と見ると、
「うわ~。おいしそう!」
デザートたちを見つめる。
「そう?」
スイートポテトと…うん?なんだこれ?
「うん。スイートポテトと…これなに?」
とホイップクリームみたいな形をしていて、サクッとした感じのものを指した。
「これは、焼きメレンゲで…。メレンゲにグラニュー糖を加えて焼いたお菓子だよ。パン屋さんとかに売ってたりするよ。」
と水瀬が教えてくれる。
「そんなお菓子あるん⁉おいしそう。どっちから食べよう…。」
悩んだすえ、
「じゃあ、こっちから食べよう。」
焼きメレンゲを取って口に運ぶ。
「おいしい!甘すぎないのがいい!!」
甘さ控えめでいい…。
嬉しそうに、照れくさそうにしている水瀬。
かわいい…。
「スイートポテトもおいしい!!」
「よかった…。」
幸せすぎじゃない?
作ってもらったお弁当を隣で食べれて…。
「食べないの?」
「た、食べるよ。」
突然、聞いたからかびっくりする水瀬。
「うん。」
焼きメレンゲを持って、水瀬の口の近くに持いく。
「えっ…。いいよ。じ、自分で食べれるから。」
「いいから。これ最後の一個だから。ほら。」
何してんだ僕⁉
迷惑だろ⁉
でも、もう引き返せない…。
「ほ、ほんとにいいから!」
「いいから。ほら。」
「いや…」
「な?」
「わ、わかったから…。」
「じゃあ、はい。」
う~。近いよ…。
あまり口を開けなかったからか、
「もっと開けて!あ~ん。」
『あ~ん』ってなに言ってんだ!
水瀬が口を開ける。
口の中にメレンゲを入れる。
ポンッ
その瞬間、
「う~ん。」
幸せそうな顔で水瀬が言う。
「そうなるよなぁ。」
と言うと、
「う、うん。」
と水瀬が言う。
変な沈黙ができる。
「た、食べ終わったしそろそろ降りようか。」
気まずい…。
買い物もあるし…。
「う、うんそうだね。」
2人で片づける。
「よっし。降りようか。」
「うん。」
下に降りていく。
途中で、荷物を黙って水瀬の手から奪い、持つ。
「ありがとう。」
「うん。」
幸せ…。
嬉しい…。
でも、次の瞬間には、『あの頃もこうだったらな…。』ってなる。


-一瞬【side嘉雅】-
「気持ちよかった~。」
「また、来よう。」
「うん。」
「てか、普通に来ていいからね。」
「うん。ありがとう。」
2人だけの秘密が欲しかった。
「次は…買い物行くん?」
「うん。」
「どこでか…」
水瀬が言い終わらないうちに、
「あれ~。響斗じゃん‼」
正面に向くと、本田が手を振って近づいてきていた。
やっべ!!
えっ、えっ…。
どうしよう…。
混乱して、思考が追いつかない。
逃げる?
逃げたら逆にまずい。
落ち着け…。馬鹿でもごまかせる。
「響斗!隣の子、誰?」
水瀬は、本田たちに背を向けていた。
「一緒に来た子?」
本田の声は可愛いいけど、どこか闇のこもった声が聞こえてくる。
「違うよ。知らん子。」
「そう…。」
なんだこの違和感…。
「なに?」
「はい。今、目逸らした。」
なっ?!
「誰?」
本田が水瀬の肩に手を置く。
「やっほ~。ドッキリ成功?」
さすが、水瀬。
合せてくれた。
「水瀬⁈」
「えへへ。びっくりした?」
あとは、本田がどうくるか。
「うん。びっくりした!」
「そう。うちもさっき、そこで嘉雅に会ってびっくりしたところ。」
よし!
「なんで、教えてくれなかったの?ねぇ、響斗。」
俺に振るな!!
「美香ちゃんが見えたときにびっくりさせようってなって。知らない人のフリしてたの。」
「そうだったの。」
危なかった。
「あの~。」
と声のした方を向くと、
先輩!
「美香、俺のこと忘れてない?」
「ごめん。」
「やっぱり忘れてた!!」
なぜに先輩がいる⁈
「水瀬も知ってると思うけど、 光川 智(みつかわ さと)先輩。話すのは初めてだよね?」
こないだ、『マジ、無理。』的なこと言ってなかったか?
「う、うん。」
「はじめまして。水瀬…」
水瀬が言い終わらないうちに、
「美香が言ってた、水瀬。水瀬梅優美ちゃんだね!!」
手を握る先輩。
気安く水瀬に触んな!
と心で言う。
「えっと…。」
てか、『美香が言ってた』って…。
「智、ストップ!!水瀬、困ってるから。」
「ごめんね。」と言って、手を離す先輩。
「連絡先、交換してくれる?」
は?
バカなの?
もしかして、本田の狙いって…。
阻止しねぇと!
てか、先輩に水瀬の連絡先を知られてたまるか!!
「えっと…」
「先輩、困ってるんでやめてもらっていいですか。」
イライラし過ぎてヤバイ。
そのとき、本田が水瀬をハグする。
「そうだよ!智、水瀬に変なこと教えないでね。超~絶ピュアだから。」
「そっすよ…。」
今、水瀬がピュアなのは関係ないが…よかった。
「うん。わかった。てか、美香、行こう。」
「えっ。ちょっと待って。バイバイ、2人とも。」
本田を引っ張っていく先輩。
ふぅ。
先輩がいてよかった…?
てか、やけにあっさりじゃね?
本田が見えなくなったところで、
「じゃあ、買い物に行こうか。」
「うん。」
水瀬に合わせて歩く。
「ねえ、さっき先輩に言ってくれたとき、なんで怒ってたの?」
怒るに決まってんだろ。
「怒ってなかったよ。」
「本当?」
覗き込むように聞いてくる。
反則だろ…。
「ズルい…。」
ぼそりと言う。
彼女には、その声は聞こえず、
「えっ。なんて?」
「怒ってたよ…。」
「なんで、怒ってたの?」
なんで?って…先輩が水瀬に触れたから。
連絡先聞いたから。
本田の思惑通りになりそうで、自分が情けなかったから。
色々と理由が浮かぶ。
「知らなくていいよ…。いつかわかるから。」
微笑んで言う。
知られたくない、知らなくていい。
今はまだ…。
「?」
「うん。わかんなくていい。」
何気ない話をしながら、バスを待つ。


-なんで【side 美香】-
智と公園に来た。
公園を歩いていると、響斗を見つけた。
響斗の顔には、笑顔があった。
その隣には、水瀬がいた。
なんで……、一緒にいんの。
「あれ~。響斗じゃん‼」
響斗は私に気づくと表情を一変させた。
何なのよ。
「響斗!隣の子、誰?」
水瀬は、私に背を向けていた。
「一緒に来た子?」
「違うよ。知らん子。」
なんで噓つくの?
「そう…。」
「なに?」
「はい。今、目逸らした。」
「誰?」
水瀬の肩に手を置く。
「やっほ~。ドキッリ成功?」
何がドッキリよ。
「水瀬⁈」
「えへへ。びっくりした?」
「うん。びっくりした!」
「そう。うちもさっき、そこで嘉雅に会ってびっくりしたところ。」
「なんで、教えてくれなかったの?ねぇ、響斗。」
わざと響斗に振るが、
「美香ちゃんが見えたときにびっくりさせようってなって。知らない人のフリしてたの。」
「そうだったの。」
うまく返された。
「あの~。」
「美香、俺のこと忘れてない?」
「ごめん。」
「やっぱり忘れてた!!」
こういう時の智よ。
私がなんで智に水瀬のこと教えたと思ってんの。
「水瀬も知ってると思うけど、 光川 智(みつかわ さと)先輩。話すのは初めてだよね?」
「う、うん。」
「はじめまして。水瀬…」
「美香が言ってた、水瀬。水瀬梅優美ちゃんだね!!」
ほら、食いついた。
「えっと…。」
「智、ストップ!!水瀬、困ってるから。」
ここで私が入ってと。
「ごめんね。」と言って、手を離す先輩。
「連絡先、交換してくれる?」
やっぱり…。智に水瀬のこと紹介してて正解だった。
「えっと…」
「先輩、困ってるんでやめてもらっていいですか。」
なんで、おこってんの。
邪魔しないでよ。
もういいわ。
「そうだよ!智、水瀬に変なこと教えないでね。超~絶ピュアだから。」
「そっすよ…。」
「うん。わかった。てか、美香、行こう。」
「えっ。ちょっと待って。バイバイ、2人とも。」
先輩を引っ張る。


-買い物-
バスに乗って、店に向かう。
店について服を見ていると、
「ねぇ、服選んでくれない?」
と嘉雅が言う。
「えっ…。う、うん。」
戸惑いながら、返事を返す。
「本当⁉」
「うん。」
すごくうれしそう…?
「どれがいいかな…。」
嘉雅に似合いそうな服を探していると、目の前のショウケースにかけられたペアリングネックレスが目に入った。
シンプルでかわいい…。
「なんかいいのあった?」
と呼ばれてびっくりする。
「えっ…。あ、うん。」
「これとこれ!」
「じゃあ、試着してくる。」
びっくりした…。
また、ネックレスに目をやる。
うちには絶対似合わないけど、かわいい…。
「水瀬!どう?」
と嘉雅に呼ばれ、見ると…
似合いすぎ……!!
かっこいい!
「水瀬…?」
はっとして、我に返る。
「あっ。ごめん。」
「もしかして似合ってない?」
そんなことはない…。
「うんん。む…」
「む?」
「む、むしろ、かっこいいです…。」
「本当?ありがとう…。」
「じゃあ、買ってくるからあそこに座ってて!」
と少し奥に見えるベンチだった。
「うん。」


-探し物【side 響斗】-
服を探している水瀬は、ふと、目の前のショウケースにかけられたペアリングネックレスを目にし、少し微笑んでみている。
シンプルでかわいい…。
水瀬に似合いそう。
「なんかいいのあった?」
呼ばれてびっくりする彼女。
「えっ…。あ、うん。」
「これとこれ!」
「じゃあ、試着してくる。」
と言って、試着室に歩いていく途中振り返ると、ネックレスに目をやる彼女の姿があった。
「水瀬!どう?」
少し目を見開く彼女。
おかしいのかな…?
「水瀬…?」
はっとしたように、
「あっ。ごめん。」
「もしかして似合ってない?」
不安になり聞くと、
「うんん。む…」
む?
「む?」
「む、むしろ、かっこいいです…。」
少し恥ずかしそうに、顔を赤に染めて言う彼女。
かわいい…。
うれしい…。
好きだなぁ。
「本当?ありがとう…。」
「じゃあ、買ってくるからあそこに座ってて!」
「うん。」
服と一緒にさっき、彼女が見ていたペアリングネックレスをレジに持っていく。
「これお願いします。」
レジに出すと、
「これネックレスの箱、つけとくな。」
と店員のお兄さんが言う。
「えっ…。」
「頑張れよ!」
「ありがとうございます…。」
一部始終を見られていたのか…。
恥ずかしく、うつむいてしまう。


-もう少し-
少し経つと、
「お待たせ~!!」
と嘉雅が帰ってくる。
「う、うん。」
「そろそろいい時間だね…。」
「ほんとだ。」
腕時計を見ると、18時を過ぎていた。
「今日は、ありがとう。」
「えっ…。こちらこそだよ。」
美香ちゃんに会った時はどうしようかと思ったけど、楽しかった。
店を出て、バスに乗って帰る。
公園前のバス停に着き、降りる。
「じゃあ…」
「遅いし、送るよ。」
えっ…。
「でも、嘉雅も遅くなるからいいよ…。それに、そんなに遠くないし…。」
「でも、女の子でしょ!」
女の子か…。
「だけど…」
「いいの!こういう時は、お姫様になれるんだから。」
「ふふ。お姫様?」
「うん。お姫様。」
言ってることは、かわいいけど頑固。
「てか、お姫様ってどういうこと?」
「お姫様は、お姫様だよ。」
そういうことじゃないんだよなぁ。
「そういうことじゃなくて…。」
「そういうことじゃなくて?」
この感じは本当に意味を分かってないか、分かっていても教える気がないか…。
「うんん。なんでもない。」
「負けました。」
「では、お願いできますか?」
「もちろん!!」
かわいい…。
「あのさ…。」
何かを聞こうとする嘉雅。
「うん?」
「また一緒に行ってくれる?」
「えっ…。う、うん。」
「嘉雅は、いいの?私で…。」
「うん。てか、その方がめちゃめちゃうれしい。」
「う、うん。ありがとう?」
「ふふ。」
なんなの…。
心臓持たないからやめてほしいんだけど…!
「あっ…。」
気がつくともう家のすぐそこまで来ていた。
少し寂しくなる。
「もうそこだから、ここまででいいよ。」
「そっか…。今日は、ありがとう。」
どこか寂しそうに言う。
「ありがとう。今日、すっごく楽しかった!!」
笑顔で言うと、口元を手で隠す嘉雅。
「?…どした?」
「うんん。何でもないよ。」
大丈夫かな?
「ならいいんだけど…。」
「うん。」
「じゃあ、また月曜日!」
「待って!」
えっ。
「どうしたん?」
「あのさ、後ろ向いて。」
後ろ?
「うん。いいけど…。」
「ありがとう。」
嘉雅がなにかガサガサと何かを出している。
「嘉雅…?」
振り向こうとしたとき、
首の冷たいものが当たる。
「えっ…。」
首元を見ると、私が嘉雅の服を選んでいたとき見つけた、あのネックレスだった。
「これ…。」
「これ、水瀬に似合いそうだったから。」
もしかして、見られてた?
し、しかも、名前!名前呼ばれたんだけど!
「…ごめん。迷惑だったよな。」
迷惑な訳ないじゃん!
逆に期待しちゃうよ…。
いいの?
心の中で嘉雅に呼びかける。
「そ、そんなことないよ!!」
つい、どうしようもなく嬉しくて、前のめりになって言う。
「なら、良かった。」
と安心したような、嬉しそうな、優しい笑顔で言う。
っ~。
そんな笑顔向けないでよ…。
また好きが募るから…。
「ありがとう。うれしい!!」
満面の笑みでいうと、目を見開いて少し驚いた顔をしたあと、
「うん!」
太陽みたいなキラキラの笑顔で言う。
周りは夜の闇で真っ暗なのに、そこだけ輝いて見える。
「じゃ、じゃあ、また月曜日!」
「うん!またね!」
家に帰って、お風呂とご飯を済ませる。
自分の部屋に上がり、ベットにダイブする。
天井を見て、今日のことを思い返す。
嘉雅が可愛いと言ってくれたこと。
自分の良いところを言ってくれたこと。
秘密の場所を教えてくれたこと。
作ったお弁当をおいしいと言ってくれたこと。
悩みを打ち明けてくれたこと。
荷物を持ってくれたこと。
先輩に言ってくれたこと。
嘉雅の服を選べたこと。
まだまだたくさんある。
そして、ネックレスを似合うと言って、プレゼントしてくれたこと。
なによりも…嘉雅と一緒にいれたことと笑顔をたくさん隣で見れたこと。
嘉雅にもらったネックレスを灯りに照らす。
ネックレスの中に嘉雅の笑顔がはじけて見えた。
「ふふ。」
大好きだなぁ~。
もらったネックレスを嘉雅が一緒にくれたケースに入れる。
「これ確かペアネックレスだったよね?……まさかねぇ。」
ペアルックあってもなくてもうれしいんだけど…。
なのに、どんどんよくわからなくなって、うれしいのに苦しくて…。
どんなに好きなままでも伝えれない。
自分の中に好きとかそういう感情が募るのが怖い。
心なんてなければいいのにって…。
恋の答えがわかってればいいのにって…。


-贈り物【side響斗】-
「あっ…。もうそこだからここまででいいよ。」
あっという間に時間は経ってしまった。
「そっか…。今日は、ありがとう。」
どこか寂しそうに言う。
「ありがとう。今日、すっごく楽しかった!!」
彼女は笑顔で言う。
口元を手で隠す。やべぇ…。
「?…どした?」
「うんん。何でもないよ。」
てか、いつ渡そう…。
タイミング見失った。
「ならいいんだけど…。」
「うん。」
「じゃあ、また月曜日!」
今しかない!
「待って!」
「どうしたん?」
不思議そうに尋ねてくる。
「あのさ、後ろ向いて。」
「うん。いいけど…。」
「ありがとう。」
服の入っている紙袋からさっき買ったネックレスを取り出す。
「嘉雅…?」
彼女の首にネックレスをかける。
「えっ…。」
彼女は目を見開いて、首元を見る。
「これ…。」
「これ、水瀬に似合いそうだったから。」
気持ち悪い。
自分で言っときながらそんなことを思う
「…ごめん。迷惑だったよな。」
「そ、そんなことないよ!!」
嬉しそうに前のめりになって言ってくる。
「なら、良かった。」
安心し、笑顔で言う。
好きだよ。
心で言う。
「ありがとう。うれしい!!」
満面の笑みを向けてきた彼女。
日も落ちて、周りは真っ暗なのに、そこだけが輝いて見える。
可愛くて、うれしくて…「僕にこんな笑顔を向けてくれるんだ。」と驚いてしまった。
「うん!」
笑顔で言う。
「じゃ、じゃあ、また月曜日!」
「うん!またね!」
彼女を見送った後、家に帰る。
「ただいま。」
「おかえり。遅かったね。」
と不満そうな顔をしているかい君。
「うん。送ってたから。」
「あっそ。水瀬、かわいそう。」
「はぁ?どういう意味だよ。」
「別に。てかさ、お兄ちゃん、水瀬と付き合ってんの?」
「付き合ってないよ。」
「それって、付き合いたいけど付き合ってないってこと?そう聞こえるんだけど…。」
「別に…。自由にとらえろ。」
僕は自分の部屋に向かう。
後ろから、
「それって、美香ちゃんのせい?」
俺は無視して、部屋に入る。
入った瞬間、ベットにダイブする。
天井を見て、今日のことを思い返す。
かっこいいと言ってくれたこと。
自分の良いところを言ってくれたこと。
相談に乗ってくれたこと。
お弁当を作ってきてくれたこと。
服を選んでくれたこと。
自分のことよりも僕のことを心配してくれたこと。
まだまだたくさんある。
そして、プレゼントを喜んでくれたこと。
なによりも…水瀬と一緒にいれたことと笑顔をたくさん隣で見れたこと。
水瀬と同じネックレスを灯りに照らす。
ネックレスの中に水瀬の笑顔がはじけて見えた。
めっちゃ、好きだわ。
ネックレスをケースに入れる。
うれしいのに苦しくて…。
どんなに好きなままでも伝えれない。
心の中で、自分の中で終わってしまう。
言いなりになって、守れる自信がなくて、言えないのが情けなくてしょうがない。
どんなに心の中で、伝えても叫んでも伝わらない。
それは、心の中で終わってしまう。消えてしまう。


-募る-
今日は、嘉雅と出かけた後、初めての学校。
話さない、離れる、見ない。
話さなければ、見なかったらいいの。
「おはよう。」
振り向くと、嘉雅がいた。
「お、おはよう…。」
驚いてしまい、返事を返すのが遅くなる。
彼は、うちの隣に来て合わせて歩いてくれる。
なんか、話題…。
「今日、歩きなんだ。」
「うん。そっちもね。」
「うん。」
「「……」」
なに、この沈黙~。
「なんかあった?」
「えっ…。ないよ。」
なんでそういうこと聞いてくるの…。
「うち、生徒会の仕事あるから早くいかないとだから…。」
「悪い…。」
なんでそんな顔するの?
「じゃあ、先行くね。」
「俺も行く!」
はぁ…。なんでそうなるかなぁ。
「ごめん…。」
「えっ…。」
うちは嘉雅を置いて全速力で走って行く。
「はあはあはあ……。」
胸が苦しい。
走ったから苦しいのか、嘉雅を突き放したことが苦しいのかわからない。
学校の正門に着く。
教室に急いで上がり、荷物を片付ける。
本を持って、教室を出て、空き教室に行く。
「ふう……。」
逃げてばっかだなぁ……。
いつも、逃げ道を探しては、無理やりでもそこを通る。
でももう決めたんだから…離れるって。
ガラガラッ
「水瀬~。」
やっば……。
なんで探しにくんの?
「……。いるわけないか。」
ふぅ……。
嘉雅が行くのを確認し、
「危なかった……。」
もう……、ほっといてよ。
保健室、行こう。
ガラガラッ。
保健室へ行くため、空き教室を出る。
「待ってて、正解だった。」
えっ…。
ドアを開くとそこには嘉雅が座っていた。
「なんで…。」
「一人になりたいときは、ここによく来てるんでしょ?」
なっ…。
「なんでいんの…。てか、なんで知ってんの?」
「おしゃべりさんがそっちのクラスにいるじゃん。いつも、ここによく行ってるの見たって。」
あの、おしゃべり!
わざと嘉雅に言ったな。
「そ、そうなんだ…。」
「ごめん。怒ってるよね。」
怒ってないと言ったら、嘘になる。
「怒ってないよ。」
そう言うと、
「嘘つき。」
「えっ…。」
まさか…癖が出てた?
うちには、癖が何個かある。
下唇をかむ癖、首の後ろを手で触る癖、耳たぶを触る癖。
「知ってる?ごまかそうとする時、自分にくせが出てるの。」
「知ってるよ。嘉雅にもあるし、他の誰かにもある。嘉雅は本音じゃないことを言うと出る。」
なんでこんな話してるんだろう。
「うん…。」
嘉雅はなぜか寂しそうに言う。
「てか、どうしたの?うちに用があったんでしょ?」
「うんん。…何もないよ。」
なんで言ってくれないの?
わかんないよ…。
「そう。何もないなら、行くね。」
「待って。」
その声とともに、うちの腕が掴まれる。
「何もないんでしょ。」
「ごめん、嘘ついた。」
なんなの…。
「じゃあ、な…」
「なんで、突き放すの?なんで離れてくの、避けるの?」
取り乱したように言う。
えっ…。
そのとき、ふと思い出す。
「よく見てあげて。嘉雅の気持ちに向き合ってあげてよ。」
と言う井伊くんの言葉を。
今もまだよく意味が分かんないし、向き合う勇気なんてない。
「ごめん…。」
気づいたらこぼれてた。
「えっ…。」
「…もう嘘はつかない。怒ってるよ!嘉雅の気持ちなんてわかんないよ。」
「ねぇ、ちゃんと教えてよ。全部教えてよ!」
うち、なに言ってんの?
「言えなくてごめん。」
「なんで避けるか。そんなの…」
ここから先は言えない。
このまま近くにいたら、好きが募っていくから。
なんて言えない。
「水瀬?」
えっ…。
声の方を見ると、美香ちゃんがいた。
「やっぱり!てか、響斗もいるじゃん。」
「お、おう。」
嘉雅のまとう空気感が変わる。
「二人とも教室に帰ろう。」
「うん。」
美香ちゃんと一緒に教室に帰ると、
「えっ…。」
教室の前の廊下の掲示板に、
「死ね。ブス。バーカ。バイバイ、水瀬梅優美。」
と殴り書きで書いてあった。
美香ちゃんの方を見ると、その顔には、うっすらと笑みが浮かんでいた。
怖くて足が竦む。
「一回、教室に入って座ろう。席、どこ?」
声が出ず、自分の席を指で指す。
そうすると、美香ちゃんは私と一緒に席に向かう。
きっと…。
席に着くと……。
あぁ、やっぱり…。
「死ね。死ね。」
机にマジックで書かれた字。
机の中を見ると、たくさん入った紙たち。
紙を引き出し、開ける。
「死ね。ブス。」
「元カレがかわいそう。お前が元カノなんて。」
「お前は一生孤独だ。」
殴り書きで書かれた言葉のナイフ。
「なにこれ。」
廊下から聞こえたのは、向日の声。
「水瀬!」
教室に名前を呼んで飛び込んでくる。
「ひ、ま…。」
「水瀬…。」
「誰よ、こんなことするの。」
「嘉雅も来て。」
なんで……。
うちが何したっていうの?
もう、一緒にいたらだめなんだ。
話すのさえダメなんだね…。
「……水瀬…。」
向日がうちを見ている。
頬を触ると濡れていた。
「あれ?」
こんなことされてもへっちゃらなのに。
嘉雅と一緒にいられなくなるのがそんなにいや?
わかんないけど、涙が止まらなくて……、胸が苦しくて。
「ううっ~……、げっほっ、げっほっ。」
「我慢しなくていい。泣きな。」
向日がうちの隣に来て、背中をさすりながら言う。
隣から、「いい気味。」という感情のオーラが出てる。
なんで、オーラだったり、こう思ってるんだろうなと思ったことが当たったり、人の癖と夢が正夢になったり、いらない能力ばっかりがうちにはあるの?
もう十分、傷ついてるし、痛いよ。
ほっといて。それ以上壊さないで、えぐらないで……。
「……。」
嘉雅は黙ったまま、うちの机をずっと見てる。
なんでか、悔しそうな顔をしている。
「響斗。」
美香ちゃんが呼ぶ。
もう嫌だな…。
そんなことを想っていると、
「…嘉雅。」
無意識にこぼれていた。
自分でもびっくりした。
嘉雅はもちろん、向日も驚いた顔をしていた。
「水瀬…。」
嘉雅に名前を呼ばれて、嘉雅を見る。
目が合ったけど、そんなの一瞬で、はっとしたかのように目をそらされる。
「……。ごめん…ごめん。」
「僕が悪いんだ……。」
ああ、いつもそればっかり。
もうわかったよ。
「ふぅ。いつもそればっかり…。」
「ふふっ。」
うちの言葉の後に聞こえたのは、声は小さいがこの距離なら聞こえる笑い声。
その声の主は、
「美香ちゃん…。」
「美香…。」
やっぱり…。
「なに笑ってんの?どこにおかしいところが…あった?」
向日は、怒りを抑えてるように言う。
嫌だ、嫌だ、嫌だ。
「もう嫌!!」
「「「えっ…。」」」
気が付いたら走ってた。
「待って!待って!」
「待って!水瀬!」
その声を無視して、全速力で走る。


-おしまい【side響斗】-
「はあはあはあ……。」
追いかけるが、追いつかない。
さすが、3年連続リレー選手。
学校の正門に着く。
教室に急いで上がるが、A組の教室にはもう、水瀬の姿はなかった。
荷物を片付ける。
そして、教室を飛び出して、水瀬を探しに行く。
学校を探し回ったがどこにもいない。
「どこ行ったんだ…。」
水瀬のクラスにいるおしゃべりだけど面白い川崎が言っていたことをふと、思い出す。
「水瀬の奴、よく空き教室に行ってるんだよ。」
僕は空き教室に急いで向かう。
ガラガラッ
「水瀬~。」
「……」
名前を呼ぶが返事はない。
「……。いるわけないか。」
でも、返事をしなかっただけかもしれない。
ガラガラッ。
だから教室を出て、教室の前に座って待つ。
ガラガラッ。
ドアが開き出てきたのは水瀬だった。
「待ってて、正解だった。」
「なんで…。」
水瀬は、訳が分からないという顔をしている。
「一人になりたいときは、ここによく来てるんでしょ?」
「なんでいんの…。てか、なんで知ってんの?」
そりゃあそうなるわな。
「おしゃべりさんがそっちのクラスにいるじゃん。いつも、ここによく行ってるの見たって。」
「そ、そうなんだ…。」
「ごめん。怒ってるよね。」
水瀬は下唇をかんで、
「怒ってないよ。」
噓つき……。
「噓つき。」
「えっ…。」
水瀬には癖が何個かある。
下唇をかむ癖、首の後ろを手で触る癖、耳たぶを触る癖。
「知ってる?ごまかそうとする時、自分にくせが出てるの。」
「知ってるよ。嘉雅にもあるし、他の誰かにもある。嘉雅は本音じゃないことを言うと出る。」
バレてた。
てか、半分言い合いみたいになってる?
「うん…。」
「てか、どうしたの?うちに用があったんでしょ?」
「うんん。何もないよ。」
また、言わずにごまかしてしまった。
ただ、一緒にいたいだけなのに。
「そう。何もないなら、行くね。」
「待って。」
彼女の腕をつかんで止める。
「何もないんでしょ。」
「ごめん、嘘ついた。」
向き合う勇気なんてない。
でも、もう、噓はおしまいにする。
「じゃあ、な…」
「なんで、突き放すの?なんで離れてくの、避けるの?」
取り乱して、全部言ってしまう。
焦ってしまい早口になる。
「ごめん…。」
水瀬の口からこぼれた言葉はその一言だった。
「えっ…。」
「…もう噓はつかない。怒ってるよ!嘉雅の気持ちなんてわかんないよ。」
「ねぇ、ちゃんと教えてよ。全部教えてよ!」
水瀬から出てくる言葉は想像していたものとは違った。
こんなに、取り乱したというかなんというかそういう感じの水瀬は初めて見た。
「言えなくてごめん。」
「なんで避けるか。そんなの…」
水瀬は言葉を詰まらせ、寂しいような、苦しいような顔をした。
「水瀬?」
へっ?
声の方を見ると、本田がいた。
「やっぱり!てか、響斗もいるじゃん。」
「お、おう。」
空気感が変わる。
なんで、今…。
「二人とも教室に帰ろう。」
「うん。」
本田と一緒に教室に帰ると、
「えっ…。」
教室の前の廊下の掲示板に、
「死ね。ブス。バーカ。バイバイ、水瀬梅優美。」
と殴り書きで書いてあった。
な、なんだよこれ……。
本田の方を見ると、その顔には、うっすらと笑みが浮かんでいた。
これももしかして……。
なんで、約束は守ってるのに。
「一回、教室に入って座ろう。席、どこ?」
水瀬は席を指で指す。
そして、本田は水瀬と一緒に席に向かう。
僕もついていく。
席に着くと……。
「死ね。死ね。」
机にマジックで書かれた字。
机の中からはたくさんの紙が出てくる。
水瀬は紙を引き出し、開ける。
「死ね。ブス。」
「元カレがかわいそう。お前が元カノなんて。」
「お前は一生孤独だ。」
殴り書きで書かれた言葉のナイフ。
「なにこれ。」
なんで、なんで、なんで!!
なんだよこれ…。
廊下から聞こえたのは、木野山の声。
「水瀬!」
教室に名前を呼んで飛び込んでくる。
「ひ、ま…。」
「水瀬…。」
「誰よ、こんなことするの。」
「嘉雅も来て。」
木野山は、僕の腕をつかんで一緒に連れて行こうとする。
もう、一緒にいたらだめなんだ。
話すのさえダメなんだ…。
「……水瀬…。」
木野山の声で水瀬の方を見て見ると、
水瀬の頬には涙が流れていた。
「あれ?」
「ううっ~……、げっほっ、げっほっ。」
「我慢しなくていい。泣きな。」
隣から、「いい気味。」という感情のオーラが出ている。
僕も水瀬も、もう十分、傷ついてるし、痛いよ。
ほっといて。それ以上壊さないで、えぐらないで……。
「……。」
僕は黙ったまま、水瀬の机をずっと見る。
「響斗。」
本田が呼ぶ。
もう嫌だな…。
そんなことを想っていると、
「…嘉雅。」
水瀬に呼ばれる。
僕はもちろん、木野山も驚いた顔をしていた。
「水瀬…。」
僕も無意識のうちに水瀬の名前を呼んでいた。彼女が僕を見る。
目が合ったけど、そんなの一瞬で逸らす。
ずっと見つめていたいけど、本田の存在に気づいて、目をそらしてしまう。
「……。ごめん…ごめん。」
「僕が悪いんだ……。」
「ふぅ。いつもそればっかり。」
ごめん…。
ごめん以外言えないんだ。何も話せないんだ。
水瀬を守るためには、それしかないんだ…。
「ふふっ。」
水瀬の言葉の後に聞こえたのは、声は小さいがこの距離なら聞こえる笑い声。
その声の主は、
「美香ちゃん…。」
「美香…。」
やっぱり…。
「なに…笑ってんの?どこにおかしいところがあった?」
木野山は、怒りを抑えるように言う。
「もう嫌!!」
そう叫んで、教室を飛び出した水瀬。
「「「えっ…。」」」
「待って!待って!」
「待って!水瀬!」
追いかけながら呼び止めるが、無視して全速力で走る水瀬。
もう、やめる。
君に今度こそ伝える。
君と向き合う、君の隣にいるために、もう君を見失わないように……。
水瀬を追いかけるが、間に合わず、見失う。
「はあはあ……。嘉雅、水瀬は?」
後ろから木野山も来る。
「てか、本田は?今、あいつが水瀬に近づいたらヤバイ!」
「そんなのわかってるよ!!だから、美香より先に見つけないと…。」
「旧校舎は見たけどいなかった。」
はっや!
もう、旧校舎探したのかよ。
とりあえず……
「屋上前の階段を見に行こう。」
「うん。」
急いで、屋上前の階段に向かう。
屋上前の階段には、本田と水瀬の姿が……。


-本当にはじめまして-
勝手に足が動く。
もう嫌だ。
なんで、逃げてんの?
美香ちゃんには、勝てないよ。
小・中・高と一緒で、うちは中・高だけだもん…。
でもさ、好きの気持ちは誰にも負けない自信がある。
それに、卑怯な手を使ったりしない。
どんなに苦しくてもそばにいれたら、嘉雅の視界にはいれるならいいと、何度も思った。
でも、噂がたくさん流れて、嘉雅が困ってるのを見るたび苦しくて、自分だけが傷つけばいいと思い始めた。
だから、噂を否定するときも自分に不利で、嘉雅には被害のいかない言い方をしてきた。
「バカだな……うち。」
嘉雅にお父さんのことを相談されたとき、「どう思ってるのか、怖いかもしれないけど、そのままお父さんにぶつけてみたら?『ちゃんと聞いて!』って。自分にちゃんと心があることは忘れちゃだめだよ…。」って、偉そうなこと言っときながら、自分はできてないんだから……。
どう思ってるのかなんて怖くて言えなくて、ありのままをぶつけられないまま……。
自分の気持ちに蓋をして、笑ってごまかして、心なんていつの間にか忘れた。
「好きなのに……。」
「伝えたいのに……。伝えないと……抜け出せないのに。」
「水瀬、見っけ!」
えっ…。
「美香ちゃん…。」
振り向くと、美香ちゃんがにっこりと笑って立っていた。
「探したんだよ。」
「あ、うん。ごめん。」
怖くて、手が震えはじめ、後ずさってしまう。
「もう、演技はおしまい。なにが「好きなのに」よ。「伝えたいのに。伝えないと抜け出せないのに。」?」
「笑わせなにでよ。伝えったって無駄よ。響斗は私のなんだから!…って、犯人に言われちゃうよ?」
「えっ…。あ、うん。」
「水瀬は、響斗のこと好きでいいんだよ。我慢しなくていい。」
はじめ、化けの皮が剝がれたかと思ったけど違った。
美香ちゃんがあんなことを思ってるとも、あんなことを言う人だとも思いたくない。
「ほら、戻ろう。」
美香ちゃんに腕を引かれ、そのままついていく。
そのとき、
「水瀬!!」
「水瀬!」
嘉雅と向日に後ろから呼ばれる。
「水瀬、怪我無い?急に走り出すから……。」
「ごめん…、向日。」
「いいよ。見つかったし。」
向日が微笑んで言う。
「水瀬…。」
声のほうに顔を向ける。
「一緒に来てくれる?」
「えっ…。」
「ダメ!!」
「水瀬は、疲れてるんだから。ねぇ?」
大きい声で叫ぶ美香ちゃん。
「美香が決めることじゃないでしょ。選択権は、水瀬にある。」
「向日にも関係ないじゃない。」
「だから、関係ないもの同士だって言ってんの。」
「水瀬、響斗についてっちゃダメだよ。」
必死で止めようとする美香ちゃん。
「水瀬、来て!」
突然、嘉雅に腕を引っ張られる。
「ちょっ!?」
嘉雅に腕を引っ張られ、走る。
「か、嘉雅、待って!待って!」
嘉雅はうちの声を無視して、腕を引っ張る。
嘉雅に引っ張られ連れてこられたのは、あの空き教室。
空き教室に入ると、
「ごめん…。」
「うんん。」
今度こそ、今度こそ伝える。
そう決めた直後、嘉雅に腕を引かれる。
「えっ…。」
「ごめん…。このままで、聞いて。」
「う、うん。」
嘉雅の腕に包まれたまま、頷く。
「でもなんで…。」
「多分、てか、絶対に水瀬が苦しむだろうし、そんな顔見たら話せなくなるし、苦しいから。」
なにその理由……。
「だからこのまま聞いて…。…お願い…。」
「うん。わかった。」
やっとわかるんだという気持ちと自分が聞いたときに言ってくれればよかったのにという気持ちが混じる。
「初めて話した時のこと覚えてる?」
「えっ。うん。」
「あのときから、水瀬のこと気になり始めたんだ。目が離せなくなって、水瀬と話せるのがうれしくて、席が隣になったときとかマジで嬉しかった。」
「告白されたときめっちゃうれしかったけど、返事返さなくていいとか言うし…、だから、返事するときどうすればいいかわかんなくて……ちゃんと返事できなかったし…。」
そうだったんだね…。
「本田の性格知ってるから言わなかったけど、バレて……。初めは何もなかったんだけど、いつからか水瀬に僕と遊んだとか、話してるのを見かけるようになって……。」
「ほんとある日だよ。ある日、当然言われたんだ。「水瀬と別れて。じゃないと、どうなっても知らないから。」って。」
そんなことが……。
「だから、少し距離を置くようにした。でも、陰で水瀬の悪口を言ったり、SNSで変な噂を流し始めた。」
「本田に一回だけ聞いたことがある。「なんで水瀬と別れなきゃいけないのかって。」そしたら……、「水瀬はいい子だし信用してるけど、男子みんな水瀬のこと頼るし、響斗のこと私から奪うんだもん。」って。」
「怖くて、水瀬を振ることにした。理由は、真実は言わないまま……。ちゃんと本田に別れたことも言ったよ。」
「だから、大丈夫だって思ってた…。だけど、水瀬と話しているのが気に入らなかったのか、どんどん噂を広めるペースが早くなった。」
「別れたって知らせてしばらく経ってからだった。去年、中3の最後に、水瀬の机の中に悪口が書かれた紙が入ってた事件あっただろう。先生がHRでそのこと話した時、心臓が止まるかと思ったよ……。それも本田だって思った。」
「話すのも返事するのもダメなんだって……、だから水瀬とかかわらないように行動した。」
嘉雅は気まずかったんじゃなくて、うちのことを守ってくれてたんだ。
うちのためにいっぱい苦しんでたんだ…。
ごめんね…。
「でも、どうしても最後ぐらい水瀬との思い出作りたくって、お出かけに誘ったりした。結局、本田に会っちゃて、邪魔された……。」
「今日のも本田がやったんだと思う。僕と水瀬が最近、仲良くしてるから……。」
「守るって誓ったのに、守れてなくて……。」
「いろいろ焦ってたんだ。めっちゃ好きアピールしても気づかないし、もう伝えるしかないんだって思った。中学卒業までには、真実を伝える気だったけど伝えれなくて…。でも、高校が一緒になれて、高校で言うって決めたんだ……。」
嘉雅は、うちを離して、肩を持ち、見つめて言う。
そっかぁ…。お互い遠回りして、いろんな障害物に邪魔されて、すれ違ってを繰り返してたんだ。
うちは嘉雅の手を握って、嘉雅の瞳を見つめて、
「うちだって、ず~っと好きだったよ。嘉雅のことどうしようもなく好きで、未練たらたらだった。離れないとって思ってた。」
「離れるために、気持ちがバレないように、いつも逃げ道を探しては、無理やりでもそこを通ってた。で、自分でなんで、逃げてんの?って。」
「どんなに苦しくてもそばにいれたら、嘉雅の視界にはいれるならいいと、何度も思った。でも、噂がたくさん流れて、嘉雅が困ってるのを見てたら苦しくて、自分だけが傷つけばいいと思い始めた。だから、うわさを否定するときも自分に不利で、嘉雅には被害のいかない言い方をしてきた。」
「バカだよね、うち。」
「嘉雅にお父さんのことを相談されたとき、「どう思ってるのか、怖いかもしれないけど、そのままお父さんにぶつけてみたら?『ちゃんと聞いて!』って。自分にちゃんと心があることは忘れちゃダメだよ…。」って、偉そうなこと言っときながら、自分はできてないんだから……。どう思ってるのかなんて怖くて言えなくて、ありのままをぶつけられないまま……。自分の気持ちに蓋をして、笑ってごまかしたまま、心なんていつの間にか忘れた。」
そう、うちは嘉雅だけにじゃない、周りの人に心を開かなかった。
向日には、少し開いてる。
嘉雅と出会えてから変われた。世界がパッと明るくなって、色づいた。
「嘉雅と出会ってから変われた。心をあんまり開かなくて、自分の世界、色褪せてたけど、世界がパッと明るくなって、色づいた。」
「美香ちゃんには、勝てないよ。小・中・高と一緒で、うちは中・高だけだもん…。でもさ、好きの気持ちはだれにも負けない自信があるし、卑怯な手を使ったりしない。」
「これからは、堂々と嘉雅に向き合って、ありのままでいく。」
嘉雅の瞳をまっすぐ見つめる。その瞳には、うちが映っている。
「前に友達に聞かれたことがある。「好きな人のどこが好きなの?」って。」
「でもさ、どこが好きとかないんだよね。好きな人だから好きなんだよ。好きに理屈はなくて、根拠もない。」
そうだ。
「好きだからタイプだし、どこが好きとかなくて、無条件に好きなんだよ。」
「恋や愛に理屈も根拠もいらなくて、答えもなくていい。正解も不正解もいらない。そんな分かってたら、みんな恋なんかしないよね。」
「うちは嘉雅が大好きです。今、うちの前にいる、この世にたった一人で、誰もなれない嘉雅が好きです。」
そう、うちはタイプが嘉雅じゃなくて、嘉雅がタイプなんです。
この世にたった一人の嘉雅が。
「僕も水瀬のことが大好き。タイプが水瀬じゃなくて、水瀬がタイプです。」
「ふふっ。」
同じこと思ってたんだ。
「えっ。なんで笑った?」
恐る恐る聞いてくる。
「うんん。同じこと考えてたから。うれしくて…。」
「そっか…。」
そして、2人で吹き出した。
「もう、本田に負けない。これからは堂々としよう。水瀬のことは僕が守るから。」
「うん。そうだね。でも、守らなくていいよ。」
「えっ…。」
「2人で歩んで、2人の幸せは2人で守ろう。」
「うん。でも、水瀬のことは僕が守るから。」
頑固だなぁ。
「頑固だなぁ。わかった。」
嘉雅は、うちの瞳を真っ直ぐ見つめてくる。
恥ずかしくて、目を逸らしたくなるが、嘉雅の瞳は真剣で、揺らぎが無く、逸らせない。
「水瀬梅優美さん、僕と付き合ってください。」
「はい!」
うちの頬には、嬉し涙が流れた。
きっと、うちの顔は一番の笑顔があるだろう。


-ウソにさよなら【side 響斗】-
「うちだって、ず~っと好きだったよ。嘉雅のことどうしようもなく好きで、未練たらたらだった。離れないとって思ってた。」
えっ…。
水瀬は僕の手を握って、瞳を見つめて、
「離れるために、気持ちがバレないように、いつも逃げ道を探しては、無理やりでもそこを通ってた。で、自分でなんで、逃げてんの?って。」
「どんなに苦しくてもそばにいれたら、嘉雅の視界にはいれるならいいと、何度も思った。でも、噂がたくさん流れて、嘉雅が困ってるのを見てたら苦しくて、自分だけが傷つけばいいと思い始めた。だから、うわさを否定するときも自分に不利で、嘉雅には被害のいかない言い方をしてきた。」
そっかぁ…。お互い遠回りして、いろんな障害物に邪魔されて、すれ違ってを繰り返してたんだな。
「バカだよね、うち。」
「嘉雅にお父さんのことを相談されたとき、「どう思ってるのか、怖いかもしれないけど、そのままお父さんにぶつけてみたら?『ちゃんと聞いて!』って。自分にちゃんと心があることは忘れちゃダメだよ…。」って、偉そうなこと言っときながら、自分はできてないんだから……。どう思ってるのかなんて怖くて言えなくて、ありのままをぶつけられないまま……。自分の気持ちに蓋をして、笑ってごまかしたまま、心なんていつの間にか忘れた。」
水瀬はバカなんかじゃないし、すごいやつだと思う。
「嘉雅と出会ってから変われた。心をあんまり開かなくて、自分の世界、色褪せてたけど、世界がパッと明るくなって、色づいた。」
それは、こっちのセリフだ…。
「美香ちゃんには、勝てないよ。小・中・高と一緒で、うちは中・高だけだもん…。でもさ、好きの気持ちはだれにも負けない自信があるし、卑怯な手を使ったりしない。」
「これからは、堂々と嘉雅に向き合って、ありのままでいく。」
彼女の瞳はまっすぐと僕を見つめていて、その瞳には僕が映っている。
「前に友達に聞かれたことがある。「好きな人のどこが好きなの?」って。」
「でもさ、どこが好きとかないんだよね。好きな人だから好きなんだよ。好きに理屈はなくて、根拠もない。」
「好きだからタイプだし、どこが好きとかなくて、無条件に好きなんだよ。」
「恋や愛に理屈も根拠もいらなくて、答えもなくていい。正解も不正解もいらない。そんな分かってたら、みんな恋なんかしないよね。」
そうだ。水瀬を好きなことに理屈なんて、根拠なんてない。
「うちは嘉雅が大好きです。今、うちの前にいる、この世にたった一人で、誰もなれない嘉雅が好きです。」
「僕も水瀬のことが大好き。タイプが水瀬じゃなくて、水瀬がタイプです。」
水瀬梅優美という、たった一人の人が。
「ふふっ。」
「えっ。なんで笑った?」
恐る恐る聞く。
「うんん。同じこと考えてたから。うれしくて…。」
「そっか…。」
そして、2人で吹き出した。
「もう、本田に負けない。これからは堂々としよう。水瀬のことは僕が守るから。」
そう言うと、
「うん。そうだね。でも、守らなくていいよ。」
「えっ…。」
結構ショックだった。
そんなに僕頼りない……?
「2人で歩んで、2人の幸せは2人で守ろう。」
そういうことか…。
でも…。
「うん。でも、水瀬のことは僕が守るから。」
「頑固だなぁ。わかった。」
僕は、水瀬の瞳を真っ直ぐ見つめる。
恥ずかしそうにしているが、逸らさないでくれる彼女。
「水瀬梅優美さん、僕と付き合ってください。」
「はい!」
そして、彼女の頬には、嬉し涙が流れた。
きっと、僕の顔は一番の笑顔があるだろう。


-なんで【side 美香】-
今日は、計画を実行する日だった。
早く家を出た。
そして、響斗と水瀬が一緒に行っているところを見た。
2人が走り出したので、追いかけた。
教室に急いで上がるが、誰もいなかった。
教室の前の廊下の掲示板に、
「死ね。ブス。バーカ。バイバイ、水瀬梅優美。」
殴り書きで書いた。
「死ね。死ね。」
机にマジックで書いた。
そして、机の中にも
そして、2人を探し、見つけた。
「二人とも教室に帰ろう。」
「うん。」
教室に帰るよう誘導する。
「えっ…。」
悪口を書いた掲示板を見て、水瀬が声をもらす。
こうなるのは当たり前。
次は、席に誘導する。
「一回、教室に入って座ろう。席、どこ?」
机の上の字見つめる。
水瀬は紙を引き出し、開ける。
「死ね。ブス。」
「元カレがかわいそう。お前が元カノなんて。」
「お前は一生孤独だ。」
殴り書きで書かれた言葉のナイフ。
「なにこれ。」
廊下から木野山の声。
「水瀬!」
教室に名前を呼んで飛び込んでくる。
「ひ、ま…。」
「水瀬…。」
「誰よ、こんなことするの。」
「嘉雅も来て。」
木野山は、響斗の腕をつかんで一緒に連れて行こうとする。
「……水瀬…。」
「あれ?」
「ううっ~……、げっほっ、げっほっ。」
「我慢しなくていい。泣きな。」
いい気味。
もっと傷ついて、壊れて。
「……。」
「響斗。」
「…嘉雅。」
水瀬に呼ばれる。
はっ?
「水瀬…。」
「……。ごめん…ごめん。」
「僕が悪いんだ……。」
「ふぅ。いつもそればっかり。」
「ふふっ。」
「美香ちゃん…。」
「美香…。」
「なに…笑ってんの?どこにおかしいところがあった?」
「もう嫌!!」
そう叫んで、教室を飛び出した水瀬。
「「「えっ…。」」」
みんなとは逆方向に行って探す。
見つけた……。
「好きなのに……。」
「伝えたいのに……。伝えないと……抜け出せないのに。」
なに言ってんの?なにが「好きなのに」よ。「伝えたいのに。伝えないと抜け出せないのに。」?
笑わせなにでよ。伝えったって無駄よ。響斗は私のなんだから!
「水瀬、見っけ!」
「美香ちゃん…。」
「探したんだよ。」
「あ、うん。ごめん。」
「もう、演技はおしまい。なにが「好きなのに」よ。「伝えたいのに。伝えないと抜け出せないのに。」?」
「笑わせなにでよ。伝えったって無駄よ。響斗は私のなんだから!って、犯人に言われちゃうよ?」
「えっ…。あ、うん。」
「水瀬は、響斗のこと好きでいいんだよ。我慢しなくていい。」
「ほら、戻ろう。」
そのとき、
「水瀬!!」
「水瀬!」
響斗と木野山が後ろから呼ぶ。
響斗…私は?
「水瀬、怪我無い?急に走り出すから……。」
「ごめん…、向日。」
「いいよ。見つかったし。」
木野山が微笑んで言う。
「水瀬…。」
水瀬が声のほうに顔を向ける。
「一緒に来てくれる?」
「えっ…。」
「ダメ!!」
「水瀬は、疲れてるんだから。ねぇ?」
私は大きい声で叫ぶ。
「美香が決めることじゃないでしょ。選択権は、水瀬にある。」
邪魔しないで!!
「向日にも関係ないじゃない。」
「だから、関係ないもの同士だって言ってんの。」
「水瀬、響斗についてっちゃダメだよ。」
止めないと!
「水瀬、来て!」
「ちょっ!?」
響斗は、水瀬の腕を引っ張って、走る。
なんで……。
こっち向いてよ。


-化けの皮-
うち達は、教室に戻る。
その途中で、向日、そして、美香ちゃんに会う。
「水瀬、嘉雅!!」
最初にうち達に気づいたのは、向日だった。
「よかった…。」
安心したように言う。
そして小声で、
「やっと、お互いの気持ち伝えたんだね。」
なっ!?
「うん……。」
「なにこそこそしてんの?」
キレた美香ちゃんが言ってくる。
「わかってんの?響斗。」
「わかってるよ。何回、聞くのそれ…。今年、何回目?」
嘉雅?
「じゃあ、なんで…。」
「もう、本田の言いなりにはならない。」
「なに言ってんの…。」
美香ちゃんはなぜか焦っている。
「そういうこと……。私よりもそんなブスが好きなの?」
えっ…。
「男子に頼られてばっかの女子の方がいいってこと?彼氏がいようと好きな人がいても、自分のことは不利にしてまで、男子にやさしくする人のほうがいいってこと?」
そして、美香ちゃんの怒りの矢は、うちに向いた。
「水瀬のせいで響斗は変わった。水瀬に会ってから…。」
「えっ…。」
「いつも、私だけに向けられてた笑顔も水瀬に向けるようになった。私を第一考えて行動してくれたのに、その第一は、水瀬になった…。美香って呼んでくれなくなった…。」
「私の方が可愛いし、ずっと響斗のことを知ってる。」
怖い…。でもここで負けるわけにはいかない。
「水瀬はみんなから頼られてるし、人のことを第一に考えてて、断るのが苦手だから、周りからそうみられるだけだ。」
「本田こそ、彼氏がいるのに男子と2人で会ったりしてるだろ。本田、先輩の気持ち考えたことあるか?」
「はっ?なんで、智が出てくんの?」
「自分に気持ちが向いてないことわかってて付き合う気持ちが…。男子と2人で会われた時の不安な気持ちが。」
「水瀬の気持ち考えたことある?」
「悪口や噓の情報を流されて、色々聞かれて、勝手に想像されて、それで笑顔で乗り切っていく気持ちが。悪口を書かれた紙を入れられて、誰かわかんないから怖くて、つらいのが。」
嘉雅…。
「僕は、本田のことは大事だよ。でも、水瀬は僕が本気で本当に心を許せた唯一の人なんだ。親にも気を使ってる僕を救ってくれたんだ。」
「本田がタイプじゃないとかじゃない。水瀬がタイプなんだ。水瀬梅優美という、たった一人の人が。」
「そして、僕の幼馴染である本田美香は、本田しかいないんだ。」
「なんで…。」
美香ちゃんはその場に崩れ落ちる。
「美香ちゃん…。」
「うち美香ちゃんのこと好きだよ。やったことは許せないけど、でもね、好きだよ。」
「好きになってくれた人に向き合えるところとか、その人のことを第一に考えるところ。…うちはできないから羨ましい…。」
「美香ちゃん、ごめん。うち、嘉雅のことだけは、譲れない。もう、負けない。」
「美香ちゃんと同じように、笑顔を向けられるとうれしくて、胸があったかくなって、心地いい。」
美香ちゃん、ごめん。
でもね、もう奪われるわけにはいかない。
「美香ちゃんにとって、嘉雅がかけがえのない存在のように、嘉雅に、向日、もちろん、美香ちゃんも私にとってのかけがえのない存在なの…。」
「美香ちゃんは美香ちゃんしかいないし、私は私しかいない。代わりなんて誰もいないし、誰も代われないんだよ。」
「だから、美香ちゃんの気持ちは、うちには、わかんない。だって、美香ちゃんじゃないから。美香ちゃんの気持ちは、美香ちゃんの他の誰もわかんないし、うちの気持ちもうちにしかわかんない。」
「だから、言葉にするんだよ。」
「はははははっ!」
「えっ…。」
なんで笑ってんの?
「なにが「譲れない」よ。「もう負けない。」?」
「笑わせなにでよ。無駄よ。響斗は私のなんだから!」
「お父さん同士で、高校卒業後の婚約の話も進んでるんだから。」
えっ…。
「そうだったんだな。でも、なくなると思う。水瀬のおかげでお父さんと向き合うことができた。その時に言ったんだ、「僕には、誰にも譲れない人がいます。誰も代わりになれない人が。」って。」
「そ、そんな……。」
「僕は、決めたんだ。」
「……。」
美香ちゃんは魂が抜けたようにその場に崩れたままになっていた。
教室に戻って、先生と話し、先生はこの件に干渉しないようにとお願いした。


-第一に【side 美香】-
なんで……。
水瀬に出会って変った響斗。
小さい時、一緒に遊んでいて、小学生の男子たちに絡めれたことがあった。
そのとき、
「やめろ~!!」
走って突っ込んで、
「美香ちゃんが嫌がってるからやめろ!」
とその男子たちに殴り掛かった。
「行くよ。」
私の手を握って、走ってくれた。
その時から響斗は、私の幼馴染でもあり、王子様にもなった。
私を第一に考えて、行動してくれた。
「美香ちゃん。」
って、満面の笑みで呼んでくれた。
響斗に振り向いてもらうために一生懸命、努力してきた。響斗の隣にいられるように、隣にいても恥ずかしくないように。
でも、響斗が振り向いたのは私じゃなくて、ある女の子だった。
響斗の笑顔は私だけに向けられた。
なのに、いつからかその笑顔はある女の子に向けられるようになり、「美香ちゃん」ではなく「本田」と呼ぶようになった。
その子は憎めないほどいい子で、私の相談も真正面から受け止めて自分のことかのように考えてくれる。
自分のことは不利にしてまで、男子にやさしくする人。
自分がどんなに不利になっても、相手のために行動する。
普通の人なら嫌がる仕事も嫌な顔ひとつせずに引き受ける。引き受けた仕事も自分の仕事も最後までやり遂げる。
そんな、心までいい子なのが逆にムカついた。
「響斗。なんで、美香ちゃんって呼んでくれなくなったの?」
「別に。」
「水瀬のことが好きだから?誤解されたくないから?」
「別に本田に関係ないだろ。」
冷たい。なんなの。
響斗は私のもの。絶対にわたさない。
いつからかそんな感情が湧き出てきた。
そして、響斗と水瀬が付き合いだしたことを噂で知った。
「響斗~。なんで、水瀬と付き合いだしたって教えてくれなかったの?お祝いしようと思ったのに…。」
「……。」
無視しないでよ。
ガチャッ
響斗はそのまま部屋を出ていった。
私は響斗を追いかけて部屋を出る。
「水瀬と別れて。じゃないと、どうなっても知らないから。」
響斗は一瞬動きを止めたが、そのまま無視して、階段を下りてった。
自分でも止めることができなくて、どうしようもなかった。
噂を流したり、陰口をたたいたり、水瀬に「響斗がね…。」と響斗は私のものアピールしたり。
それを知ったのか、ある日……、
「なんで水瀬と別れなきゃいけない?」
響斗が聞いてきた。
だから答えた。
「水瀬はいい子だし信用してるけど、男子みんな水瀬のこと頼るし、響斗のこと私から奪うんだもん。」
「だから別れてよ。別れないと大変なことになるよ。一生後悔するよ。」
私はいったいどんな顔をして言っていたのだろう。
しばらく経って、響斗から電話がかかってきた。
「水瀬と別れたから。」
その一言だけ言われ、電話を切られた。
これで、振り向いてくれる。
そう思っていたけど、響斗は水瀬の方に向いたままピクリとも動かなかった。
別れても、付き合う前のように仲が良くて、本当に別れたのか疑うほどだった。
でも、水瀬が響斗に向ける笑顔は時々寂しそうだった。それが「別れたんだ。」という確信つながった。
それからも陰口はやめることはできず、ついには、悪口を書いた紙を水瀬の机の中に入れた。
それから3日経って、担任の先生が帰りのHRでこのことを話した。
響斗はその日を境に水瀬を無視するようになった。
そのまま卒業を迎えて、安心していた。
でも、高校が一緒になった。
まだ大丈夫。
でも、大丈夫じゃなかった。
響斗のために人生をささげてきたのに、なんで私には、振り向いてくれないの?
「僕の幼馴染である本田美香は、本田しかいないんだ。」
私は、響斗の幼馴染でうれしい。
でも、幼馴染じゃなくて、恋人になりたかった。
だから、お父さんにも頼んだ。
なのに、
「そうだったんだな。でも、なくなると思う。水瀬のおかげでお父さんと向き合うことができた。その時に言ったんだ、「僕には、誰にも譲れない人がいます。誰も代わりになれない人が。」って。」
「僕は、決めたんだ。」
なんでよ……。
私じゃダメなんだ…。
第一は、水瀬なんだね…。


-向き合い【side 響斗】-
疲れた……。
家に帰る。
「ただいま。」
「おかえり。」
ママが出迎えてくれた。
「お父さんと美香ちゃんが来てるわよ。」
はっ?
「響斗、おかえり。」
「なんで、お前いんだよ。」
「話したかったから…。」
話したかったから?
「話すことないだろ!」
「響斗。」
「パパは黙ってて!」
「響斗!」
「なに!」
なんだよ!
「美香ちゃんが全部話してくれた。」
「はぁ?」
「お前の好きな人にしてきたことも全部だ。」
なんだよそれ…。
でも、偽りの情報があるかもしれない。
「わかった。本田はかい君と部屋で待ってて。」
「わかった。」
本田がリビングを出ていき、本田がパパ達にどんな話をしたのか聞く。
全部、本当のことを話してた。
かい君の部屋に行く。
コンコンッ
「本田…。僕の部屋で話そう……。」
僕の部屋に来る。
「座って。」
「うん。」
「なんで、急に本当の事、話したの?」
また、なんか企んでるんじゃ…。
「もう、やめようって思って……。」
「えっ…。やめるって……。」
「今から私が、なんでこんなことをしてきたのか、本心を話すね。」
「う、うん。」
本心…。
今まで、ずっと本心を言っているんだと思ってた。
確かに今まで一度も聞いたことがなかった…。
言っていることが本心なのかどうか…、確認なんて毎回しないもんな。
「覚えてる?……小さい時、一緒に遊んでて、小学生の男子たちに絡めれたことがあったでしょ。
そのとき、「やめろ~!!」走って突っ込んで、「美香ちゃんが嫌がってるからやめろ!」って、その男子たちに殴り掛かったと思ったら。「行くよ。」って、私の手を握って、走ってくれたでしょ。その時から…響斗は、私の幼馴染でもあり、王子様にもなったの…。」
えっ……。確かにあった。
怖かったけど、本田を助けるために殴りかかったのを覚えてる。
「響斗に振り向いてもらうために一生懸命、努力してきた…。響斗の隣にいられるように……、隣にいても恥ずかしくないように。でも、響斗は水瀬の方に振り向いた…。水瀬は、心まで純粋でいい子だった。そんな、心までいい子なのが逆にムカついた。」
そんなことを思ってたなんて知らなかった。
「響斗は私のもの。絶対にわたさない。って、いつからかそんな感情が湧き出てきた…。」
「真っ黒で汚いものが心をどんどん染めていって、自分でもどうしようもなかった。」
「響斗から水瀬と別れたって聞いたとき、これで、振り向いてくれる。そう思っていたけど、響斗は水瀬の方に向いたままピクリとも動かなかった…。」
「別れても、付き合う前のように仲が良くて、本当に別れたのか疑った。…でも、水瀬が響斗に向ける笑顔は時々寂しそうだった。それが「別れたんだ。」っていう確信につながった。」
「でも、響斗のために人生をささげてきたのに、なんで私には、振り向いてくれないの?って、止めれなくなった。」
何にも知らなかった……。
「僕……」
僕が言い終わらないうちに、
「私は、響斗の幼馴染でうれしい。でも、幼馴染じゃなくて、恋人になりたかった……。でもね、もうわかったからいい……。」
「えっ…。」
「今日で思い知った。私じゃダメなんだ…。水瀬なんだ。って。」
「ごめん…。僕、何も知らなかった……。」
全然、本田の気持ちを理解できてなかった。
「いいの。なんで、響斗が謝るの?」
「だって…。僕、本田の気持ち、勝手に理解してると思ってた……。でも、全然理解できてなかった。」
「水瀬が言ったでしょ。「美香ちゃんの気持ちは、うちには、わかんない。だって、美香ちゃんじゃないから。美香ちゃんの気持ちは、美香ちゃんの他の誰もわかんないし、うちの気持ちもうちにしかわかんない。」「だから、言葉にするんだよ。」って。」
「響斗に一つも伝わってないんだって……。だから、言葉にしたの。」
「私ね、智と向き合うことにした。」
「……傷つけてごめん、心配かけてごめんね。もう、解放されて、私という縛りから……。」
本田……。
「…本田。ごめん…。そして、ありがとう。」
「じゃあ、また明日。」
「お、おう。」
「あああああ!言い忘れてた!」
「へっ?」
「響斗の幼馴染、本田美香は私だけだから。響斗の大切な人、彼女の水瀬梅優美は、水瀬だけだから。ね!」
「お、おう。」
「じゃあ!」
本田を送った後、スマホを見ると、通知が来ていた。
「水瀬!」
すぐに開く。
『おつかれさまです。』
『明日、一緒に学校に行きませんか?』

「やった!」

『おつかれ。』
『もちろん。』
『本当?』
『いつもの公園前に、7:20に集合でいい?』
よし!!
『うん。』
『よかった…。』
『じゃあ、また明日。しっかり休んでね。』
『うん。また明日。水瀬もね。』
『おやすみなさい。』
『おやすみ。』

やった~!
楽しみだなぁ。
コンコンッ
「響斗、いいか?」
「うん。いいよ。」
パパが僕の部屋に来るのは、珍しい。
どうしたんだろう……。
「響斗、前に「誰にも譲れない人がいます。誰も代わりになれない人が。」って宣言したよな。」
「う、うん。」
「その子の予定が合う日でいいから、紹介してくれ。」
急になんで……。
「えっ…。あ、うん。」
「でも、なんで急に…。」
「知りたいんだ…。お前のことと向き合っていきたいんだ。」
えっ……。
パパ…。
「ありがとう…。わかった。」
「聞いてみる。」
「ああ。」
パパは、少し微笑んで返事をした。
パパが僕のことを聞いてきたのは、何年振りだろうか…。
これもきっと、水瀬のおかげだ。
ありがとう…。


-幸せ-
あの事件の次の日。
「おはよう。」
「お、おはよう。」
今日は、待ち合わせをして、一緒に学校に行くことになった。
「……。」
「……。」
気まずい…。
嘉雅がうちの手を握る。
「えっ…。」
「ご、ごめん…。」
「えっと……。学校の人が多いから…。」
なぜ、こんなにも人目を気にするかというと……、普通に恥ずかしいのもあるが、嘉雅は、先輩からも人気があるから。
本人は気づいてないみたいだけど……。
「つないじゃダメ?」
「ダメじゃないけど……。」
こういういいところでいつも…
「おはよう!」
「おはよう。」
ですよね~。
「おはよう、井伊君、美香ちゃん。」
「水瀬、ごめん!!」
美香ちゃんは、勢いよく頭を下げて謝ってくる。
「えっ…。いいよ。終わったことだし。」
「本当?」
「うん。」
「神~。」
仲直りをしたということでいいよね。
「いいのか?」
井伊君が驚いたように聞いてくる。
「うん。」
「水瀬、早速なんだけど……。」
「うん。」
「智とね、ちゃんと向き合うことにした。」
「うん。いいじゃん。」
よかった……。
「あのさ、みんな、僕のこと忘れてない?」
あっ!
「あっ。忘れてた。」
井伊君が言う。
「井伊、邪魔しときながらそれはないぞ。」
今、サラッと邪魔しときながらって言った。
「怒んな。拗ねんな。」
「別に拗ねてねぇし……。」
かわいい…。
「水瀬、行こう。」
「えっ。ま、また後で。」
うちの手を引き、進み始める。
嘉雅が手を離す。
それからゆっくりとうちの隣に来て、歩く速さを合わせて並んだ。
また、うちの手を握り、
「このままでいて…。」
「うん。」
それからは、授業を受けるが半分以上、入ってきてない。
世界が全然違って見えて、ふわふわしてる。
「水瀬。水瀬。水瀬!」
「えっ、あ!何?」
「何じゃない!帰りのHR終わったし、先生が学園祭の部活計画プリント持って来いって。」
「わかった。ありがとう。」
「ぼーっとしすぎ。いや、ぼーっとじゃなくて、ぽーっとかな…。」
「いじんないでよ。」
軽く向日に説教され、職員室に向かおうと教室を出ると、嘉雅が現れた。
「水瀬、一緒に帰ろう。」
「今から先生に学園祭の部活計画プリント持っていかなきゃいけなくて…時間かかると思う。」
「わかった。待ってるから。一緒に帰ろう。」
「暗くなるから。」
「だから、送る。」
頑固だなぁ。
「いやいや、大丈夫だよ。」
「大丈夫じゃない。送るって。」
「いや、いいって。遅くなっちゃうから。」
「だから、僕がもうちょっと一緒にいたいから……。」
なっ!?
「っ~。わ、わかった。一瞬で終わらせてくる。」
恥ずっ。
「失礼します。1年A組の水瀬です。」
「入れ。」
「先生、すいません遅れました。」
先生、早く。
待たせてるんです!
「大丈夫?」
「えっ…。」
「今日、ぼーっというか、ぽーっとしてたから…。」
げっ。
「えっ…。はい。問題ありません。」
やばいぐらいぼーっと、ぽーっとしてたんだ。
「ならいいけど……。しっかりしてね、水瀬ちゃん以外まともに行動してくれる人がA組にはいないから。」
「はい…。」
「よっし、いいよ。頑張って!」
「ありがとうございます。失礼しました。」
いっそげ~。
「お待たせ!」
「うん。」
2人で玄関に行く。
もう、他の生徒はほとんどいない。
「はい。」
嘉雅が手を差し伸べる。
その手を取る。
「なんか、恥ずかしいね。」
うちの手、世界で一番幸せ説。
「あのさ、明日空いてる?」
「明日?土曜だよね。」
スケジュール帳をカバンから出して、見る。
「空いてるよ。」
どうしたんだろう。
「こないだ、水瀬のことパパに宣言したって言ったじゃん。それで……パパが会わせてくれって。」
えっ!
「そ、それは全然いいんだけど…。」
「服とか気にしなくていいから。いつも通りの水瀬で。」
「…明日の13時ぐらいに公園前集合でいい?」
「うん。」
「ありがとう!」
もう緊張してきた…。
てか、親出てくるの早くない?
どうしよう…。
服は気にしなくていいとか言われてもなぁ…。
いつも通りのうち…。
今日、寝れないわ……。
絶対、寝れないわ……。


-大好き。【side 響斗】-
「お兄ちゃん、何時からだっけ?」
「13時だって…。ママ、何回、聞くの?」
今日20回以上は聞かれてる。
「だって…。って、もう13時になるわよ。」
「行ってきます。」
あ~、遅れる。
「お待たせ。」
「うちも今、来たところだよ。」
かわいい…。
「行こうか。」
「う、うん。」
「それ、つけてくれたんだ。」
彼女の首元を指す。
「うん。お守りだから……。」
お守りかぁ……。
「僕も、実はつけてる……。」
恥ずかし…。
「これペアルックだったもんね。」
「ありがとう。」
「ん。」
家の玄関の前に着く。
「緊張しなくていいよ。いつもの水瀬で。」
水瀬の手を握る。
「う、うん。」
ガチャッ
ドアを開ける。
「ただいま。」
「お邪魔します。」
「いらっしゃい。あら、梅優美ちゃん。」
ママが水瀬だと気づく。
「こんにちは。」
「やっぱり…。梅優美ちゃんなら安心ね。」
一方、ママの隣に立つ、かい君は、ショックで下を向いている。
「どうぞ、座って。」
「…はい。」
「どうぞ。」
「ありがとうございます。…あと、これ…。」
「あら、ありがとう。」
席は水瀬の隣に僕。
僕の前がパパ、その隣にママ、かい君だ。
「……。君が響斗の彼女さんだね。」
パパ、声!怖いから。
「水瀬梅優美といいます。中学校、高校と嘉雅君と同じです。」
「単刀直入に聞くが、響斗のどこが好きなんだ?」
パ、パパ!
「生意気かもしれませんが…」
「生意気でもいい。」
「はい。」
「どこが好きとかないです。好きな人だから好きで好きに理屈はなくて、根拠もないんです。好きだからタイプですし、どこが好きとかなくて、無条件に好きなんです。」
「恋や愛に理屈も根拠もいらなくて、答えもなくていい。正解も不正解もいらないんです。」
「私は嘉雅君が大好きです。今、私の前にいる、この世にたった一人で、誰もなれない嘉雅君が好きです。」
「タイプが嘉雅君じゃなくて、嘉雅君がタイプなんです。この世にたった一人の嘉雅君が。」
水瀬…。
「そうか……。」
「響斗が俺に宣言してくるわけだ。」
パパが認めてくれた!!
「響斗、水瀬さん、絶対モテるから油断したら取られるぞ。」
「うるさい!!」
パパのバカ!
「水瀬さんは、本当に響斗のこと好きでいてくれてる。」
「響斗のことを頼んでみいいかな?」
「はい!こちらこそ、嘉雅君にお世話になります。」
「ダメだよ。パパ!水瀬は、お兄ちゃんにはもったいなすぎるよ。」
出てくんなよ!
「かい君も梅優美ちゃんのこと好きだったのねぇ。」
「うるさい!」
「拗ねんなよぉ。」
「お兄ちゃんまで!」
「兄弟そろってか。」
家族での楽しい会話、いつぶりだろう。
「ふふっ。」
「あっ。すいません…。楽しそうだったので…。」
「私は家で、気を遣っているので、羨ましいです。」
「そうか…。つらくなったら、ここにおいで…。」
「えっ…。いいんですか?」
「いいんだよ…。」
「ありがとうございます。」
「そういえば、水瀬さんは、自分のこと『うち』とか言わないんだね。」
「言います。使い分けてるんです。」
「使い分けてる……。」
「えっと、親のことを家では、『ママ』、『パパ』ですけど、外では、『お母さん』、『お父さん』って呼んだり。そんな感じで、『私』と『うち』を使い分けてます。」
「すごいな…。」
「そうですか?ありがとうございます。」
うれしくて、安心したような水瀬の顔。
そのあとは、何気ない話をしたり、ママとパパが僕の話をしたり、僕は恥ずかしさで死にかけだったが、水瀬が楽しそうだったので良かった。
「お邪魔しました。」
玄関を出て、水瀬を送る。
「今日、楽しかった?」
「うん。」
手を握る。
満面の笑みで返事を返してくる。
かわいい……。
愛しい…。
可愛すぎ…。
「嘉雅といっぱい一緒にいれたし、嘉雅のこといっぱい知れた。」
あ~、かわいい…。
誰でも好きになるわ。
「どうした?」
止まった僕を不思議に思って、首を傾げ聞いてくる。
「わっ!」
水瀬を引き寄せ、抱きしめる。
「なになに?どうしましたか…。」
「いや、こっちのことだから。」
「なにそれ…。」
かわいい…。
可愛い以外の言葉が見つからない…。
水瀬、絶対に一生保護します!
「水瀬。」
「うん?」
彼女の顔に顔を近づける。
そして、唇を重ねる。
唇を離し、彼女の顔を見ると、目を見開き、顔を真っ赤にしている。
「…大好き。」
「う、うちも…。」




君との別れは噓だらけだった。
そして、お互い遠回りして、いろんな障害物に邪魔されて、すれ違ってを繰り返してた。
向き合って、本当を知ったとき、やっと出会えた本当の僕と君。
そして、僕と君の日々がほらすぐそこに。
ウソにさよなら、本当の僕と君にはじめまして。