「まさか、憧れていた会社に再就職できるなんて、夢みたい」

五月が今日から働くのは、大学生の頃からずっと働きたいと思っていた会社だ。主に女性向けのメイク用品の開発を行なっている会社で、その会社のメイク用品が五月は大好きなのだ。そのため、ずっと動くことのなかった喜びという感情が少しずつ五月の中に溢れていく。

スーツに着替えるため、五月はパジャマを脱いで洗濯機の横に置いてあるカゴに入れる。洗濯機の中にずっと洗濯物を入れっぱなしにしておくとカビが生える原因となってしまう。

「あっ……」

ふと、鏡に自分の姿が映り込んでしまった時、五月の目に入ってしまうのは骨盤の少し上の辺りにできた傷痕だ。五月はその傷痕にそっと指を当てる。傷は痛むことはない。だが、胸の奥がグッと痛みを覚え、息苦しくなっていく。

その場に座り込み、五月は目を閉じて息を吐く。嫌な思い出が固く閉ざされた扉を開けて飛び出そうとし、慌てて五月は頬を軽く叩く。