「ちょっと描いてみてよ、なんでもいいからさ」

 白い紙とシャーペンを渡された。目が合うとスッと逸らされる。なんで。吉田君の気持ちが分からない。

「あら、私も望月さんの絵、見たいな」

 私と吉田君のやり取りを聞いていた小川先生が小さく手を挙げた。これ幸いと言わんばかりに吉田君が「ですよねー。ほら、小川先生もそうおっしゃってるんだし」と紙とペンをさらに突き出してくる。あまり断ることが得意ではない私は「仕方ないな……」と言ってサラサラと手を動かした。

 なんてことはない、アニメ風の猫をパパっと描いただけだった。

「うわ、望月、天才じゃん。めっちゃ猫だし。え、すご」
「本当に上手ね。可愛らしい猫ちゃんだわ」

 2人はこちらが恥ずかしくなるほど手放しで褒めてくれた。自分では顔と身体のバランスがおかしいし目なんて左右大きさが違うから納得のいく絵ではなかったのに、2人は、とくに吉田君は「いやマジですごい。絵が描ける人ってマジ尊敬する」と穴が開くほど私の描いた猫を見ている。