ハグは保健室の前で

「ごめんね、吉田君。私、看護師になるのが夢なの。だから、吉田君にだけ贔屓することはできない。本当にごめん」
「望月……」

 しばらく見つめ合って、もう一度「ごめん」と謝ろうとしたら「ぶはっ」と吉田君が吹き出した。

「素直で真面目すぎる……っ! あーもう、そういうとこ好きだわ」

 クツクツとお腹を抱えて笑う吉田君。好きだと言われるのは嬉しいが、大笑いと共に言われるのはちょっと腑に落ちない。

 人が真剣に話したのに。ふん、もう知らない。

 吉田君に背を向けて教室に帰ろうとすると「待って望月」と呼び止められた。

「なに」
「怒んなって。独占したいのは本音だけど、これで我慢するから」

 ほら、と言って吉田君は両手を広げた。口では言ってないけど「さぁおいで」と聞こえる。え、保健室の前、廊下のど真ん中で? キョロキョロと辺りを見回すが、誰もいないようだった。

「望月。ハグ、させて?」

 吉田君が徐々に近づいてきた。抵抗する理由がないので、その大きな身体にすっぽりと収まる。

 心臓が暴れてうるさい。でも、身体を預けている吉田君からも、激しい心音が聞こえた。心地良い体温と心地良いリズムでなぜだか安心する。しばらくハグを堪能してゆっくりと離れた。

「……よし、教室戻るか」

 赤ら顔で吉田君は歩き始めた。保健室前を離れる前に、私は保健だよりを振り返る。2人で作った作品がこうして飾られるのは恥ずかしいけど、これのおかげで吉田君と上手くいったと思えば感謝したくなる。

「望月? どうした?」
「ううん。なんでもない!」

 私は心の中でお礼を言って、吉田君の後を追いかけた。

END.