それからアイス枕を冷凍庫から出してタオルを巻き、東川君の首元に差し込んだりして看病する。

 そうこうしているうちに小川先生が戻ってきた。東川君の様子を引き継ぐ。

「ありがとね、望月さんも吉田君も。助かったわ。保健だよりもお疲れさま。またお願いね」
「いえ。じゃあ後はお願いします」
「こちらこそお疲れさまでした。東川のこと、よろしくお願いします。じゃあ帰ろうか、望月」
「うん」

 吉田君と2人で保健室を出た。いつもは下校時間に帰るけれど、今日はまだ時間があるので吹奏楽の音や運動部の掛け声などが聞こえてくる。

「…………」

 なぜか無言で歩を進める2人。なにか言わなきゃ。でもなにを? グルグル考えているうちに階段と靴箱のわかれ道に来た。

 ここで別れてしまったら、吉田君とは普通のクラスメイトに戻ってしまう。ちょっと前まではそれで充分だった。同じクラスで視界に吉田君が入ればそれでよかったのに。

 この1週間で欲が出たようだ。

 私が口を開いたと同時に、吉田君も口を開いた。

「あのねっ」
「あのさっ」

 思わず顔を見合せて笑い合う。しばらくそうして、吉田君は色素の薄い瞳を私に向けた。

「……俺が望月と同じ保健委員になった理由、聞いてくれる?」

 吹奏楽部の音が一瞬消えて、柔らかな音楽が奏でられ始めた。曲名は分からないけど、優しいBGMに心が安らいでいく。

「うん」

 私は吉田君の言葉に耳を傾けた。