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「チャリがパンクしてさ。参ったよ」

 吉田君と2人並んで校門を出る。頭ひとつ分私より背の高い吉田君は頬を人差し指でポリポリと掻いた。

 まさか一緒に下校するなんて。男の子と2人で帰宅するという経験がないため、極度の緊張に包まれる。変に意識してしまって吉田くんがいる右側の身体が自分の身体じゃないくらいに感覚がない。切り離されているような感じだ。この緊張が吉田君に伝わりませんように……

「この匂い、金木犀?」

 クンクンと鼻をひくつかせて吉田君は私を見た。同じように鼻をひくつかせて匂いを嗅ぐ。

「あ、ほんとだ。秋の香りがする」

 花は見えないが金木犀の甘い香りが鼻腔をくすぐった。深呼吸ができたおかげか、鼓動の速度も落ち着いてくる。

「俺、春夏秋冬の中で秋が一番好きだな」
「どうして?」
「暖色系が好きなんだ。紅葉とか夕日とか、あと金木犀もオレンジだし。落ち着くっていうか、ホッとするっていうか」
「いいね。気候もちょうどいいし」
「望月はどの季節が好き?」
「やっぱり春かな~。桜、キレイだし」