「いや、褒めすぎだよ」
「なぁ、これ、もらってもいい?」
「え?」

 30秒くらいで描いたその猫の絵を、吉田君は宝物を見つけたように大事そうに抱えた。え、そんな絵が欲しいの? だったらもうちょっとちゃんと描いたのに。

「別にいいけど……」
「やった! サンキュ、望月」

 ニカっと屈託なく笑った吉田君に、心臓が激しく鼓動を始めた。顔が熱くなり、炎が立ち昇る中に全身を投げ込まれたかのような焦燥感が走る。

「あ、じゃあさ、保健だよりの絵、望月が描いてよ。先生、絵はいつもフリーイラスト使ってるんですよね?」
「ええ、そうよ。いいじゃない、望月さんの絵。すごくいい保健だよりになりそうね」

 自分の話をされているのに、身体がフワフワと浮いていて2人の話が頭の中で変換されない。水の中にいるような浮遊感さえ覚える。

 もう知らないフリはできなかった。私は吉田君のことが好きなのだ。

 適当に描いた絵を「すごい」と褒めてくれて、さらには「欲しい」とまで言ってくれた。素直に嬉しい。好きな人の笑顔が、こんなにも嬉しいなんて。

「あら、もうこんな時間。2人ともお疲れ様。また明日もよろしくね」

 楽しい時間はあっという間に過ぎる。もう下校時間か。寂しいけれど、また明日も会えるからいいか。

 じゃあまた明日、といつもなら保健室で別れていたのに。

「望月って確か電車通だったよな? 俺も今日電車で来たから一緒に帰ろ」