離婚前提から 始まる恋

「酔っているわよ、悪い?だから風にあたって酔いを醒まして帰ろうと思ったのに」
あなたがここに連れてきたんじゃない。

「この店、嫌いですか?」
「そういう問題じゃないでしょ」

私の言葉が通じないのか、わざとはぐらかそうとしているのか、まったくかみ合わない二人の会話。
これも拓馬君の作戦なのだろうと思うのは、勘ぐりすぎだろうか。

マズイな、今の私は当酔っている。
口調が強くなっているし、いつもより声も大きい。
過去に数回しか酔っぱらった記憶はないけれど、これはかなり危険なサインだ。

「実はここ、僕の親父の店なんです」
「え?」

「すみません、拓馬の父です」
今までの会話が聞こえていたはずのマスター、いや拓馬君のお父さんがお替りのカクテルを出しながら頭を下げている。

「そんな・・・私の方こそすみません。事情を存じ上げなくて・・・」

もう、最悪。
ここが拓馬君のお父さんの店だったなんて。
それなのに、私は勝手に誤解して怒ってしまった。
できることなら、今すぐにここから消えていなくなりたい。

「黙っていてすみません。花音さん辛そうだったから、気分転換にと思っただけなんです」
「そうだったの」

「父親とは言ってもこいつの母親とは10年以上前に離婚していましてね、父親らしいことは何もしてやっていないんです。それでも時々店に顔を出して手伝いをしてくれるんですから、我が子ながらいい息子です。それに、拓馬がここに女の子を連れてきたのはあなたが初めてですよ」
「そうだったんですか・・・」
私とても酷いことを言ったのかもしれない。