離婚前提から 始まる恋

「ごめんなさい、何?」
私の後ろからついて来ていた拓馬君に呼ばれ、足を止めた。

「ちょっとだけ寄り道いいですか?」
「え?」
「トイレ行に行きたいんです」
「ああ、うん」
生理現象じゃ仕方ないわよね。

きっと近くのコンビニにでも入るんだと思ったら、拓馬君が入って行ったのは小さなバー。
もちろん驚いたし、入ることにためらいもしたけれど、店の奥のトイレに駆け込んでしまった拓馬君を置いて行くわけにいかず私も店内へと入った。

「どうぞ」

入ったのはいいけれど、どうしていいかわからず立ち尽くしている私にカウンターの中から声がかかる。

「はい」
とりあえず、カウンター席に腰を下ろした。

ここは小さくて雰囲気のいいバー。
カウンターが5席とテーブル席が2つのこじんまりした造りで、少し暗めの照明と流れるジャズが落ち着いた印象の店。

「何かお作りしましょうか?」
カウンターの中から声をかけてきた50代くらいの男性がマスターのようだ。

「じゃあ、あまり強くないのもので」
「かしこまりました」

手際よく準備して、シェーカーを振るマスターがとっても素敵で、私はじっと見つめていた。