離婚前提から 始まる恋

「じゃあね杏」
「うん、花音も気を付けて帰ってね」

二時間ほど居酒屋で飲んだ後メンバーの半分は二次会へ向かったけれど、さすがに私は帰るからと店の前で杏に手を振った。

さあこれからどうしよう。
普段飲まないお酒を飲んだせいで少しフワフワした感じがするし、火照った顔に夜風が気持ちいいから、少し歩きたいな。

「花音さん、タクシー拾いましょうか?」
二次会に行ったはずの拓馬君が私のもとに駆け寄ってきた。

「いいわ。私は少し酔いを醒ましたいから、駅まで歩くわ。拓馬君は二次会に行くんでしょ?」
「ダメですよ。一人じゃ危ないから、僕が付き合います」
「えぇ、いいわよ」

夜風に当たりたいと言っても真っ暗な道を一人で歩こうって言うんじゃない。
繁華街の大通り、明るくてまだ人通りも多い道を歩くんだから、危ないことなんてないのに。

「じゃあ、行きましょう」
「う、うん」
ここでもまた断ることができず、拓馬君の言葉に促されて歩き出してしまった。

目的もなく東京の街を歩くなんていつぶりだろう。
夜九時を回った街にはネオンがキラキラと輝いていて、楽しそうに手を繋いだカップルたちが通り過ぎていく。
これから飲みにでも行くんだろうか、みんなオシャレをしていて心なしか足取りも軽い。
いいなあ。
私だって、一度でいいからあんな風に手を繋いで歩きたかった。

「・・さん・・・花音さん」
「あぁ、はい」
考え事をしていて、拓馬君に呼ばれたことに気が付かなかった。