「花音、どうした?」
いつの間にか電話を終えた勇人が、私の顔を覗き込んでいた。
「うん、平気。それより、大丈夫なの?」
仕事のことに口を挟むのもどうかと思ったけれど、もしホテルの手配で困っているのなら実家の父でも力になれるかもと尋ねてみた。
「大丈夫、何とかする」
有言実行の勇人がこう言うからには、きっと大丈夫だろう。
そういう意味で私は勇人を信頼している。
「本当に困ったら三朝財閥の名前を使うよ。できればそうしたくはないけれどな」
「そうね」
三朝財閥の名前を使えばホテルの手配なんて容易いこと。
ただ、私がなるべく父の名前を出したくないように、勇人も三朝財閥の力は借りたくないのだろう。その気持ちは私にもわかる。
どんなに自力で頑張っても、父の名前を出した瞬間に親の七光りで片づけられる。そんな思いを嫌ってくらいしてきたから。



