「勇人、お待たせ」
「いや、俺も今来たところだ」

その日の夜、都内にあるホテルのバーで俺に歩み寄ってきたのは、大学時代からの友人若狭真也だ。
学生時代は色が白くて線が細くてきれいな男の子って印象だった真也だが、最近はジム通いにはまっているらしくかなり筋肉が付いた。
その上普段からスーツを好んで着るようになったり銀縁の眼鏡をかけたりで、年齢以上に落ち着いた印象。
本人に言わせればこれもイメージ作りらしいが、同い年の俺から見ても少し年上に見える。

「そろそろ選挙だって噂だから、忙しいんじゃないのか?」
「まあな」

昨年国政選挙があったばかりだというのに、最近では次の選挙が間近に迫っていると盛んに報道されている。
この一年で政治家のスキャンダルが続き国民も政治不信になってるところだから、今選挙をすれば世の中が大きく変わるんじゃないかともっぱらの評判だ。

「今回はお前が出るのか?」
「まだ、わからない」
「そうか」

だよな。
それは、軽々しく言えることでもないはずだ。
しかし、以前から心臓に持病を抱えているお義父さんには常に引退説が付きまとっているし、年齢的に言っても真也が引き継ぐにはいいチャンスだと思う。
しかしなあ・・・

「お前たち、まだ反対されているのか?」
「あ、ああ」
珍しい、真也にしては弱気な顔だ。