里佳子さんが帰った後、私は自分の荷物をまとめた。
大き目のスーツケースに下着と着替えとパソコンとカード類。
このまま帰らないなんてことはないと思うけれど、里佳子さんが出入りしているんだと思うと自分の物は少しでも持ち出しておきたい気にもなった。

今まで、どんなに腹が立っても勇人のもとを去ろうなんて考えたこともなかったけれど、今はここにいることが辛い。
とてもじゃないけれど、勇人の顔を見る勇気がない。
私は急いで荷物を作ると、『今晩泊めてもらいたい』と杏にメッセージを送った。

ピコン。
すぐに返ってきた杏からの返信。
『今日は早く帰れそうだから待っているわ』

助かった。杏には悪いけれど、今晩一晩お世話になろう。
勇人の顔を見る勇気がないくせに一人では不安に押しつぶされそうな私は、唯一の友人である杏を頼ることにした。