離婚前提から 始まる恋

私は里佳子さんのことが好きではない。
本当ならさっさと帰ってほしいと思っている。
でも数分後、私は里佳子さんのためにコーヒーを淹れ向かい合って座っていた。

「時間、大丈夫ですか?」
「ええ、まだ大丈夫です」

そもそも、社交辞令として「よかったらコーヒーでもいかがですか?」と言った私が一番悪い。
それでも、里佳子さんは急いでいるからきっと断られるのだろうと思っていた。
しかし、

「美味しいコーヒーですね」
「ありがとうございます」
「同じ豆を使っていますが、私が淹れるとこうはなりません」
「そうですか」

先日勇人の会社用にもうちと同じコーヒー豆を注文した。
一体だれが淹れるんだろうと思っていたけれど、どうやら里佳子さんが淹れてくれたらしい。

「奥様は、幸せですか?」
「え?」
びっくりして顔を上げた。

「ごめんなさい、変なことを言って。えっと・・・友人の話なんですが、長いこと側にいる腐れ縁みたいな男性がいましてね、先々の人生を考えるとこのままずるずると曖昧な関係で行くべきなのか、けじめをつけるべきなのかって悩んでいるらしいんです」
「それは、人によって違うと思いますが・・・なぜ私に聞くんですか?」
その質問は私にしてはいけない気がするのだが。

「奥様って、幸せな結婚の象徴に見えますから」
「私が?」
「ええ。お金持ちで、地位も名誉もあって、その上妻思いの優しい旦那様と2人暮らし。自分も仕事をしながら悠々自適の生活じゃないですか」
「それは・・・」

無意識のうちに、私の顔は凍り付いていた。