離婚前提から 始まる恋

「副社長から書類をとってくるようにと頼まれたのですが、探させていただいてもかまいませんか?」
「ええ」
どうせ、私がいなければ勝手に探す気だったのでしょう?

案内したわけでもないのに勇人の書斎へとまっすぐに向かう里佳子さん。
しばらく書斎から物音がした後、書類を手にした里佳子さんが現れた。

「ありました。今日中にどうしても必要なものだったので、すみません」
「いえ」
仕事で必要な物なのだろうと私も理解している。
でも、私がいないと思っていながら里佳子さんを一人で部屋に入れる勇人の神経がわからない。
勇人にとってこの空間は私が思うほど特別なものではないのか、それだけ緊急な事態だったのか、里佳子さんが勇人にとって特別な存在なのか。
理由はわからないけれど、どちらにしてもいい気分ではない。

「もしかして、奥様が戻っていらっしゃることを勇人は知らないんですか?」
「え、まあ」

って、里佳子さんが『勇人』って呼んでいる。
普段は『副社長』って呼ぶ里佳子さんが勇人を名前で呼ぶのはよほど驚いたときか焦った時。本人が自覚しているかはわからないけれど、素が出てしまったってことだろう。

「怒りますよ。奥様のことを凄く心配していますから」
「そうでしょうか?」
どうせもうすぐ別れてしまう夫婦なのに。