離婚前提から 始まる恋

「あれ、奥様?」

ん?
夢の中に聞こえてきた里佳子さんの声。

思わず『嫌な夢だな』と顔をしかめそうになってから、思考を止めた。

「奥様」

随分生々しくはっきりと聞こえる声は、夢とは思えない。
それに、そっと肩を叩かれる感覚はまさに現実。

う、うぅーん。
私はゆっくりと目を開いた。

「奥様、大丈夫ですか?」
「え、ええ」

私の顔を覗き込んでいる里佳子さんと目があって、驚いた。
なぜ、ここは自宅マンションなのに、どうして里佳子さんがいるんだろう?

「倒れていらっしゃるのかと思って焦りましたよ」
「すみません」

ん?
なぜ私が謝っているんだ?

「副社長からは、実家に帰省していらっしゃると伺いましたが?」
「ええ。今日こちらに戻ったばかりです」
「そうですか。副社長から聞いていなかったものですから、勝手に上がってすみません」
「いえ・・・」

何だろう、この違和感。
里佳子さんの言い分では、私がいなければ勝手に上がってもいいってことのように聞こえる。
もしかしたら今までもそうやってこの家に入っていたんだろうか。