「そうだ、コーヒーが飲みたいな」

元々コーヒーが好きではなかったが、花音と暮らすようになって朝食の後は必ずコーヒーを飲むようになった。
それも、花音が気に入って買ってくる有機栽培のコーヒーがやたらと美味くて、それしか飲まない。
せめて今朝もあのコーヒーが飲みたいんだが・・・

しばらくキッチンを探し回ってコーヒー豆は見つけたが、この先どうしていいのかがわからない。
せめてボタン一つでコーヒーが入るコーヒーメーカーでもあればなんとかなったんだが、コーヒー豆が出てきたところで俺にはどうすることもできない。
もちろん俺だって、生活のすべてを花音に頼ってきたつもりは無い。
10代の頃から一人暮らしをしていたせいか自分のことは自分でする習慣もついているし、世間一般から見ると手のかからない旦那だと思ってもいる。
しかし、それは男の1人暮らしとしてって意味で、花音のような完璧な家事はできるはずもない。

「仕方ない、コーヒーは諦めるか」

独身時代の朝食なんて、パンに野菜ジュースですませるか食べないかの二択。
それでも何の不満もなく生活していたんだが、花音と暮らすようになって一年ちょっとで俺の生活もすっかり変わってしまったらしい。

結局、コーヒーを飲むこともなく、花音に声をかけることもないまま俺は出勤することにした。