「最近、ずっと考え事をしているね」
専務執務室に戻り、コーヒーと頂き物の焼き菓子を挟んで向かい合い座った私に、何があったのかと尊人さんが説明を求める。

「そんなつもりはないのですが、申し訳ありません」

確かに悩み事は尽きないけれど、周囲には気が付かれないようにしているつもりだった。
でも、さすがに尊人さんは誤魔化せないか。

「勇人と何かあった?」
「いえ、何も」
「本当に?」

疑わしいぞって目で、私を見る尊人さんは私や勇人を心配する兄の顔。
そう言えば、私の兄の真也も時々同じような表情をする。

「しいて言うなら・・・先日、ボランティアの打ち上げて飲み過ぎて、勇人に叱られたんです」
「へー、珍しいね」
「そうですか?」

何か理由を言わなければさらに追及されそうでとりあえず言ってみたけれど、尊人さんには意外な答えだったらしい。
もちろん、それだけが私の悩みの種ではない。
だからと言って、拓馬君のことを話すわけにも、里佳子さんのことを相談することも、ましてや勇人との関係を打ち明けることもできない。

「ねえ、花音ちゃん」
「はい」
尊人さんが私を下の名前で呼ぶのはプライベートのとき。
どうやら話があるんだなと、すぐにわかった。

「あいつのことだから何も言わないかもしれないけど・・・実は今、勇人は仕事上のトラブルを抱えているんだ」
「え?」
手にしていたコーヒーカップを持ったまま、私は固まった。