「お待たせしました。船橋さんと増田さんに捕まっちゃって、なかなか帰してもらえませんでした」

「いいですよ。いつまでも待ってますから」

「うん…」

葵さんは、返事をするなり腕を組んで寄り添ってきた。

「葵さん…他の人に見られますよ」

「いいじゃないですか?みんな知ってる事なんですから…」

「だったら下駄箱で待ち合わせをする必要なんてなくないですか?」

「わかってませんね。女心が…」

「はぁ?」

葵さんは、僕の顔を覗き込み微笑んだ。

“ドキッ”とした。

その笑顔は、まるで亜季ちゃんを見ているようだったから…。

その笑顔を見る度に亜季ちゃんを思い出し、少しばかり“シュン”としてしまう僕がいた…。

そんな僕を見た葵さんも、また悲しそうな顔をした。

「葵さん…笑顔、笑顔っ」

僕は葵さんの頬に手をあてて言った。

僕は、これからも亜季ちゃんを好きだった事を忘れる事も、好きという想いが消える事もないだろう。

消える事はなくても、思い出として心の中にしまっておく事は出来る。

そして今1番大切なのは、今を生きるという事…

今僕の目の前にいる人を全力で愛するという事…

「葵さん…」

「何ですか?」

「それは…」

好きになってもいいですか?そう言おうと思った。

「はっ‥はい…もちろんです」

「まだ何も言ってませんけど…」

「えっ!?」

「葵さん…」

「はい」

「じゃんけん…ポンッ」

そんな訳ないか…

そして今…僕らの恋は始まった。