正面玄関を通り病院の外に出て歩いていると、突然葵さんが手を繋いできた。

葵さんを見ると、目からボロボロと溢れ出る涙を制服の袖で拭っていた。

「葵さん…大丈夫ですよ。あとは茉奈ちゃんの生きたいっていう気持ちを信じましょう」

「でも…怖いんです」

「大丈夫ですから」

気付いたら葵さんの体を抱き寄せていた。

「・・・・・」

葵さんは何も言わず、僕の胸の中で静かに身を任せていた。

僕を拒み続けてきた亜季ちゃんとは違い、葵さんは僕に全てを委ねてくれていた。

それから僕らは、まるで恋人のように肩を並べて駅まで歩いた。

駅に着くとホームにあるベンチに座り、電車が来るのを待った。

すると、10分も経たないで電車がやって来た。

僕はベンチから立ち上がり、乗車口に向けて歩き出した。

振り返ると、葵さんはベンチに座ったまま動こうとしなかった。

「葵さん…具合でも悪いんですか?」

「いいえ…」

「もしかして、何か見えたんですか?」

「違います」

「なら何ですか?」

「私…家には帰りたくありません」

「どうしたんですか?」

「朝まで一緒にいてくれませんか?」

「えっ…マズイですよ。女の子が朝まで男と2人きりなんて…」

「私は構いませんよ」

「でも…」

「私とじゃ嫌ですか?」

「そういう事じゃなくて…」

「だったら、いいですよね?」

「・・・・・。遠藤さんに連絡しといた方がいいんじゃないですか?」

「連絡なんかしません…」

「だって…」

「しませんっ」

葵さんは声を荒げてそう言うと、何かを言いたそうに僕を見つめていた。

「とっ‥とにかくここにいても仕方ないので、どこか店に入りましょう」

「どこでもいいです。紺野さんにお任せします」

「カッ‥カラオケなんてどうですか?」

「カラオケですか…」

葵さんは、何故か不満そうな顔をしていた。

そして、納得していない葵さんをよそに、駅から歩いて5分くらいの所にあるカラオケ店に向かった。

目的地に到着し部屋の中に入ると、歌を歌う訳でも話をする訳でもなく、ただソファーに座って時間が過ぎるのを待っていた。

「あっ‥あの…そっちに行ってもいいですか?」