いつも素っ気ない態度をとっても気にしないで話しかけてくる明るい仲村に、いつもペースを乱され、気付くと向こうのペースに乗せられている。

そして、いつしか笑顔にさせられている。

「親友なんでしょ?千葉くん言ってたよ」

「あいつが勝手に言ってるだけだ」

「ふ~ん、そうなんだ。あっ…来た!」

仲村の視線の先には、教室の扉を開けて中に入って来る松下の姿があった。

「みんな、おはよう。もう既に知っている人はいると思うが、昨日千葉が大怪我をして救急車で病院に運ばれた。幸い足の骨を折るだけで済んだから良かったようなものだ。ここでみんなに十分気を付けてもらいたい事がある。くれぐれも階段の最上段からジャンプして飛び降りるような事がないように。わかったな!」

「はい!」

みんな一斉に返事をした。

「そんな事する訳ないわよね」

「千葉ってバカだよな」

「ウケ狙いでやったんじゃねえの」

「調子にのってるからこういう事になるんだよ」

「アイツがいなくて静かでいいや」

そんな声が教室中から聞こえてきた。

誰も千葉の心配をする者も同情する者もいなかった。

普段の行いが悪いからとしか言えなかった。

それでも、千葉を嫌っている者はこのクラスにはいないし、みんな心の中では早く帰って来て欲しいと思っているに違いなかった。



そして…千葉のいない3組の1日が終わった。

静かな1日だった。

平穏で平和な1日だった。

でも、何か物足りなかった。

「何か1日つまらなかったね」

仲村は僕の顔を覗き込んで言った。

「1番つまらなそうなのが、あそこにいるけどな」

僕は、教壇の上にいる松下に視線を向けながら言った。

「いじる相手がいないから寂しいのよ。それに何だかんだ言っても、先生は千葉くんを気に入ってみたいだし…」

「僕もそう思ってた。昨日も病院で様子がおかしかったし…」

そうして仲村と2人で松下の話をしていると、ふとした瞬間に松下と目が合ってしまった。

慌てて目を反らした。

「紺野、何だ?」

「何でもないです…」

「“何でもないです”じゃねぇだろ。こっち向いて何か言ってただろ?」

「あっ…あぁ…」

松下の威圧的な態度に怯んでしまった。

「まぁ、いい。それより佐藤に宿題のプリントと連絡ノートを届けてもらっていいか?」

「えっ!?葵さんに?何で僕が?」

「佐藤と仲良いんだろ?」

「仲がいっ‥」

「じゃあ頼んだぞ!」

すると僕の返事を待たずに荷物を渡された。

「ちょ‥ちょっと、先生…」

呼び止めようとした時には既に廊下に出て歩いて行ってしまった。

「行っちゃったね。紺野くん、どうするの?」

仲村に至近距離で心配そうに見つめられて“ドキッ”としてしまった。

「“どうするの?”って…届けるしかないじゃん。松下に何言われるかわかったもんじゃないから…」