目的もなくただ歩いていた。

葵の気持ちになって考えたら、罪の意識に苛まれジッとしていられなくなった。

「パパっ」

振り返ると、そこには先程までベッドの上で数日間もずっと眠り続けていた遥香がいた。

起きたばかりのパジャマ姿にサンダルだった。

どうやってここまで来たんだ。

もしかして…

「遥香お前…」

「心配かけてごめんなさい。でも、もう大丈夫だから」

遥香の言葉で安心したのか、それとも葵への罪の意識からなのか、涙が自然と溢れ出てきた。

気付くと遥香を力いっぱい抱きしめていた。

葵を抱きしめた時と同じ感触がした。

葵と同じ匂いがした。

「パパ、痛いよっ」

「ゴメン…」

自然と力が入っていた。

「ママはパパの幸せを心から願ってるよ。それは私も同じだよ。パパと美咲ちゃんなら私は喜んで祝福するから」

「ありがとう…でも…」

「でもじゃないよ。何でママが双子の妹である亜季おば様じゃなくて美咲ちゃんに私たち家族を託したと思ってるの?」

「それは…」

「未来を全て見てわかってたから、そうしたんだよ。前に1度、ママに質問した事があったの。

【ママはいつも私の誕生日になると手作りのケーキと誕生日プレゼントを贈ってくれるけど、パパには何でないの?】

【パパには既に最高のGIFTを贈ったの】

ママはそう言ってた。

【それって何?】

私は何の事かわからなかったから聞いてみたの。

【それは、あなたと美咲ちゃんよ。だから私からパパに贈る物はもう何もないの】

ママはそう答えてた」

「葵はそんな事言ってたのか…」

確かに、葵のおかげで遥香と美咲さんとずっと一緒にいる事が出来た。

これ以上ない最高の“GIFT”だ。

「パパ、美咲ちゃんの所に戻ろう」

「そうだな…」

「あっ‥そうだっ。やる事があったの忘れてた。ちょっとそこで待ってて」

遥香は数歩前に進むと、体の正面に手をかざし始めた。

すると突然風が吹き始め、うなり声をあげ始めた。

「はぁぁぁっ」

遥香のかけ声と同時に突風が吹き荒れ、風が渦を巻きながら草木を薙ぎ倒していった。

「パパ、ごめんなさい。衝撃が強すぎました。でも、今あなたに死なれたら困るから…」

遥香の今の言葉…

声…

何処かで聞いたような…

確か…

「パパ、お待たせっ」

「遥香…今のって?」

「憶えてるの?」