もしかして葵が気にしているのは僕と美咲さんの関係のことだろうか?

きっとそうだ。

葵がいなくなってから17年が経っていた。

とてつもなく長い歳月の間に、知らず知らずのうちに僕と美咲さんは互いに惹かれ合い、良好な関係を築いていた。

でも、過去の世界では葵にとって僕は愛すべき夫であり家族だ。

きっとこんな未来見たくもなかっただろうし、そんな僕らの前に、こうして現れなきゃいけないのは苦痛以外の何物でもなかっただろう。

もし僕が葵と逆の立場で未来の葵の隣に僕以外の男性の姿があったとしたら、耐えられないかもしれない…。

そのうえ、その男性が自分の知ってる人なら、尚更やるせない気持ちでイッパイになるだろう…。

そう思ったら何も話せなくなった。

「瑛太…気にしないで。これは仕方のない事だし、2人にとっては自然の事なんだよ…」

そう言った直後、スマホの前の葵は後ろを向いてしまった。

すると肩は小刻みに震え、時々咽び泣く声が聞こえてきた。

「葵…」

「ゴメン、ゴメン。目にゴミが入っちゃった」

スマホの前に戻って来た葵の目は赤く腫れぼったかった。

それでも何とか平静を装っていた。

それが逆に見ていてツラかった。

「葵…今でも葵を好きな気持ちは少しも変わってないよ。1日だって葵を忘れた日はなかった。葵を想わない日はなかったよ」

「ありがとう…やっぱり私…瑛太が大好き」

「うん…」

葵の目からはボロボロと涙が溢れていた。

「でも、そんな事言ったら美咲ちゃんに怒られちゃうからね…」

「美咲さんは、僕の気持ちはわかってくれてる。僕にとって葵がどれほど大切な人である事も…」

「葵ちゃん…」

先程まで僕から少し距離をおいていた美咲さんが、いつの間にか僕の真後ろに立っていた。

そして葵と美咲さんは、ただ見つめ合って互いに小さく頷いていた。

「瑛太…こうして話が出来るのも、たぶん次が最後になると思うの。ゴメンね…何もしてあげられなくて」

「葵…未来がわかってるなら今からでも間にあっ…」

「何度も言ってるけど、そんな必要ない…。瑛太が今いる未来が私にとって正しい未来なの…」

「だからって…」

「いいのっ。遥香が来たらよろしくね。じゃあ…」

「葵…まだ話したい事があっ‥」

プッープッープッ……

そして電話は切られた。

「美咲さん、ちょっとその辺歩いてくるよ」

1人になりたかった。