あれから3年が経ち、遥香は中学2年生になった。

仕事が忙しい事を理由に、家の事、遥香の事は、美咲さんに任せきりで僕は殆んど何もしてあげられなかった。

それでも、遥香は優しくたくましい子に育ってくれた。

それに特殊な能力を持っているにも関わらず、これといって特に大きな問題は1度として起きていなかった。

葵のように能力を使って人助けをする事もなかったようだし、能力者であるがゆえの悩みや迷いや孤独で苦しんでいるという様子も見られなかった。

それに、葵ほどの能力は持ち合わせていなかったようだし、能力者としての自覚も使命感もなかったようだ。

僕は、これで良かったとホッとしている。

葵のように強い力を持って苦しみながら生きるより、今の遥香のように普通の女の子として生きて行ってくれる方が親として安心だった。



そして遥香はあと数ヶ月で3年生になる。

今日は来年の高校受験に向けた三者面談が16時30分から遥香の教室で行われる。

いつもそのような学校の用事は、美咲さんに丸投げしてきたけど、今日はどうしても僕にも来て欲しいと遥香に頼まれたので、仕事は早めに切り上げて一緒に行く事にした。

学校までは美咲さんと2人きりで20分かけて歩いて到着した。

校門をぬけると、あの電話BOXが目に入ってきた。

僕は自然と足が止まっていた。

「どうしたの?この電話BOXに思い出でも?」

「えぇ…。憶えてはないんですけど、ここに来ると妙に切なくなるんです」

「誰かとここで待ち合わせをしてたとか…」

「僕の事を好きだった同級生の女子が、いつも待っててくれてたみたいなんです…」

「紺野くんは、その子の事どう思ってたの?」

「わかりませんけど、たぶん好きだったんじゃないかと思います」

「そうだったんだ…」

「この気持ち…間違いないと思います」

「もし2人が付き合ったとしても、紺野くんと葵さんは結ばれる運命にあった訳だよね。そしたら2人はいずれ別れる事になっていたんだから気にする事ないんじゃない…」

「そうかもしれないけど、僕は例えどんなに短い時間だとしても好きな人と結ばれて一緒にいたいかった。こんな事言ったら葵に怒られるかもしれないけど…」

「紺野くん…。あっ‥あのね、実はね…わたっ…」
「美咲ちゃん、こんな所で何してるの?早くっ、早くっ」

遥香は僕らが来るのを待ちきれなかったようで、外まで迎えに来たようだ。

「美咲ちゃん、もしかして今…」

遥香は何故か美咲さんを真剣な面持ちでジッと見つめていた。