「パパ、廊下側から2列目の前から3番目の机の中を覗いてみて」

遥香に言われるがまま指定された席に座り、中を覗いてみた。

あっ!?

これって僕の小学校の卒業アルバムじゃないか…。

確か最後に手にしたのは、葵と小学校に来た時…

葵が教室で1人になる時に貸した…

「パパ、それ貸して」

「いいけど…」

僕は訳もわからないまま遥香にそれを渡した。

「パパ、5年と6年て3組だよね?」

「そうだけど…」

すると遥香は卒業アルバムを開き始めた。

「何してる?」

「小川理香っていう人の写真を探してるの…」

「なっ‥何でその人の写真を探してるの?」

「だってバパの初恋の相手なんでしょ?」

「・・・・・」

「違うの?」

「そっ‥そうだけど…‥ママに聞いたの?」

「聞いてないよ。只…パパとママがこの教室に一緒に来た時、机の下に潜り込んで何かを見てたでしょ?だから、さっき2人の机を見ちゃった」

「パパが小学生の時はこういう事をするのが流行っていたんだよ。こんなの今更見たって誰も何とも思わないよ」

「そうとも言い切れないと思うけど…。卒業アルバムが入っていた机…小川理香さんのだよ」

「まさか…」

僕は慌てて机の下に潜り込んで見上げてみた。

「葵…」

数年前まで、相合い傘の中には僕と小川理香さんの名前が書かれていた。

でも今は…小川理香さんの名前には2重線が引かれ、その横に…

“紺野葵”と書き直されていた。

「もしかして…」

「パパの机のも書き直されてるよ」

僕が座っていた机も確認しようとすると、遥香に先に言われてしまった。

「遥香、スマホ返して…」

遥香から受け取ると画面に向かって葵を呼んだが、葵の姿はなく誰もいない教壇と黒板が映し出されていた。

どうやら机の上にスマホを置いて、何かをしているらしい。



ガラガラガラ…‥

教室のドアが開けられる音がした。

すると画面の中に、後ろ姿の葵が映り込んできた。

葵の体の後ろには、隠し持った黒のマジックペンがあった。

今ようやくわかった。

あの時、葵が何を手に持っていたのかを…

そして、あの時名前が書き直されていた事も…

「葵…何してるの?」

「なっ‥何もしてないよ。瑛太の書いた相合い傘を見てただけ…」

どうやら過去の僕がやって来たらしい。

葵は電話が繋がっていた事を忘れているようで、2人の会話がずっと聞こえていた。

懐かしい光景だった。

それから数分後、葵は机の上のスマホを手に取ると、過去の僕と一緒に教室を出て行った。