目を開けると自分の布団の上で横になっていた。

確か昨日…僕は公園で意識を失った。

もしかして、あれは夢だったのか?

僕は慌てて布団を捲り上げると手の甲を見てみた。

傷1つないキレイな手をしていた。

そんなバカな…‥

昨日僕は地面を何度も拳で打ち付けたせいで、手が血だらけでボロボロになっていたはずだった。

そして次に額にあるはずの傷を手で触ってみた。

あれ?

傷がない…

僕は近くにあった手鏡を手に取ると額の傷跡を確認した。

何で?

間違いなく僕の手と額には自ら痛めつけた傷があるはずだった。

たった一晩で傷が完全に消えてしまった。

僕が意識を失っている間に何かがあったのだろうか?

それとも全て夢だったのだろうか?

色々と考えても何の解決にもならなかった。

考え事をしていて気付かなかったが、キッチンの方から美味しそうな匂いが漂ってきていた。

葵…

そうか…葵が消えてしまったのは夢だったんだ。

きっとそうだ。

だって今も葵は朝食の準備をしてくれている。

「葵っ」

僕は大声で葵を呼びながらキッチンに向けて走った。

でも、そこには

「遠藤さん…」

キッチンには背中に遥香をおんぶしたエプロン姿の遠藤さんが料理を作っていた。

「紺野くん、おはよう。顔色が真っ青だけど大丈夫?」

「えぇ…」

夢じゃなかったのか…。

僕は顔を見られたくなかったので、遠藤さんに背を向けてイスに腰掛けた。

「紺野くん…朝食は、紺野くんの好きな麦とろご飯と厚焼き玉子、それに…なめことほうれん草の味噌汁だよ」

遠藤さんは何事もなかったかのように普通に接してきた。

「ごめんなさい…。そんな気分じゃないんです」

「でも、ちゃんと食べなきゃ体に良くないよ」

「そんな事言われなくてもわかってます」

「紺野くん…私は紺野くんの体が心配だから言っ‥」

「大きなお世話なんだよっ。こんな時に平然と朝食なんか食べられる訳ないだろっ」

「紺野くん…ごめんなさい。そうだよね…」

つい大声を張り上げてしまった。

何も悪くない遠藤さんに僕はあたってしまった。

「オギャア…オギャア…‥」

僕の声に驚いて眠っていた遥香が目を覚まして泣き出した。

すると遠藤さんは遥香をあやしながら家の外に出て行ってしまった。

葵のいない寂しさと、葵を失った胸の憤りを遠藤さんにぶつけてしまった。

そんな自分の不甲斐なさに腹が立ち、しばらく茫然としていた。



カチッ…‥

テレビの電源が勝手に入り映像が流れ始めた。

「瑛太、ツラい思いをさせて、本当にごめんなさい。でも美咲ちゃんにあたったらダメだからね」

「葵…」

「悪いのは私…。瑛太には昨日の出来事が夢の事のように感じてると思うけど、あれは現実に起こった事なの…」