葵が疲れて眠っている間、僕は友人や高校時代の恩師の松下やお世話になった方々、そして…外国にいる亜季ちゃんと遠藤さんに出産の報告をした。

夜の8時を回っても、葵は目を覚ます様子は全くなかった。

もともと体調が決して良いとは言えなかった葵が、過酷過ぎるとも言える出産に挑んだんだ…

余程疲れ果てているんだろう。

それから僕は面会時間の終了の時間になったので帰る事にした。

帰りは病院まで母さんが迎えに来てくれた。

母さんは、「今日は実家に泊まれば」と言ってくれたが、色々やる事もあったのでアパートに帰った。

家のドアを開けると、美味しそうな匂いが玄関までしてきたので急いで靴を脱いで家に上がり、キッチンに走った。

するとキッチンのテーブルの上には、オードブルや僕の大好きなお寿司、火がついたローソクが刺さったバースデーケーキが置かれていた。

葵が用意してくれたようだ。

僕はイスに座るとローソクの火を一気に吹き消した。

ピッ…

すると、突然キッチンにあるテレビのスイッチが入り、映像が流れ始めた。

「瑛太…お誕生日おめでとう。大切な記念日なのに、一緒にいてあげられなくてゴメンね。来年は必ず2人のお誕生日を一緒にお祝いするからね。それと、今日は私の出産に立ち会ってくれてありがとう。本当に嬉しかったよ。数日後には退院して家族3人で過ごせるから、それまで辛抱してね。それじゃあ最後に、歌を歌います。ハッピバースデー瑛太~ハッピバースデー瑛太~」

それから数分間、葵の熱唱が続いた。

「じゃあね、瑛太…チュッ」

最後は葵の投げキッスで映像は終わった。

この映像…つい最近撮られた物ではなかった。

撮られた場所は結婚前まで葵が住んでいたマンション…

撮られた時期は葵が妊娠する前…

制服がハンガーに掛かっている所を見ると、高校生の時に間違いないだろう。

そんな頃から用意されていたのか…。

それに、まだ温かい料理と火のついたローソクが刺さったケーキ…

どうやって用意されたのだろう?

考えても納得のいく答えは見つからなかった。

謎ばかりが残った…。