20分後…タクシーは市内とは少し離れた場所に到着した。

かなり広大な敷地で、1000坪くらいはありそうだった。

今現在この土地は、まだ何の建設予定地にもなっていない。

「ここに何が出来るの?」

「結婚式場」

「僕らはここで?」

「・・・・・」

葵は何も言わず首を振っていた。

「それなら誰の…もしかして遥香の?」

「そう…」

娘の遥香はここで式をあげるのか…‥

産まれてもいない娘の結婚式と言われても、全く実感が湧かなかった。

しばらくの間、無言のまま歩き続けた。

敷地の中程を越えた所で、突然葵は立ち止まった。

「こんなに広い敷地に出来る結婚式場なら、かなり立派な建物なんだろうね?見てみたいなぁ…」

僕は自然と葵の唇に目が行っていた。

もちろん娘の結婚式場が、どんなものなのか知っておいた方がいいと思ったからだ。

キスがしたいとかそんなんじゃない…。

「キスはしないからね」

「違うって。僕は娘の為に…」

「今、私の唇見てたでしょ?」

「見てなっ‥」

言葉を遮られた瞬間…

僕の目の前には葵の顔があり、唇と唇は重なりあっていた。

でも、何の映像も見えては来なかった。

そして唇を離そうとすると、僕の頬に冷たい物が伝ってきた。

目を閉じていても葵が啜り泣いているのはわかった。

「ゴメンね。泣いてばっかりで…」

「気にしなくていいよ」

「聞かないんだ?」

「葵が話したくなったら話せばいいよ」

葵、君は1人じゃない。

君の傍には僕がいる。

泣きたいくらい悲しい時は、僕が君を笑顔にさせる。

楽しい時は、何十倍も僕がもっと楽しくさせる。

葵のどんな感情も僕が一緒に味わっていく。

だから、悲しまないで。

「ありがとう…」

「えっ…」

すると葵は再び僕にキスをした。

すると僕の目に…

バージンロードを歩くウェディングドレスを着た花嫁と、その花嫁と腕を組んでいる父親の映像が飛び込んできた。

多くの参列客に見守られながら、幸せそうに新郎の元へと歩いていた。

その姿を注意深く見ていると、花嫁の父親の手には“ギプス”がされていた。

骨折?

こんな一生の思い出に残る大事な結婚式だというのに…

お気の毒としか言えない…

「瑛太だよ」

「マジで?」

一応驚いてはみたものの、おおよその検討はついていた。

娘の遙香の結婚式…

「怪我するのわかったんだから、未来を変えるチャンスは出来たでしょ」

「気を付けるよ」

「瑛太…」

「何?」

「うぅん、何でもないよ…」

「そう…」

きっとここも、数年後に訪れる事になるんだね。