葵がアルバイトを始めて直ぐの頃、僕は「何か欲しい物があるの?」と聞いた事があった。

「大切な人への贈り物を買おうと思って、バイトを始めたの。自分で稼いだお金で買いたいの」

すると葵は、そう答えた。

大切な人とは誰の事を言っているのか考えもつかなかったけど、僕ではない事だけは確かだった。

なぜならバイトを始めて数ヵ月経った今でも、僕への贈り物は何1つなかったからだ。

それにバイト代は、そこそこ貯まっているハズなのにバイトを辞めると言う言葉は一切耳にしなかった。

「葵、バイト代で一体何を買おうとしてるの?」

「教えない。そのうちわかる時が来るよ」

「そのうち?」

「そう、そのうち…」

葵が、そういう言い方をする時は、必ずと言っていいほど未来に関する何かだ。

「今度、瑛太が通っていた幼稚園と小学校と中学校に連れて行って。その他にも大好きな場所、思いでの場所もいいなぁ。あと私たちの高校じゃないんだけど、W高校に行ってみたいんだけど…ダメかな?」

「別にいいけど。何で僕が通っていた小学とか中学になんか行きたいんだよ?」

「だって私は、瑛太の17年という長い人生の中の、ほんの1部分しか知らないんだよ。もっと瑛太の事知りたいの」

「それは僕も同じ気持ちだよ。葵の事もっともっと知りたい」

今でも十分でいうほど葵の事が大好きだ。

でも、もう2度と僕らの間に誰も入り込めないくらい愛し合いたい。

「瑛太…」

「何?」

「瑛太って、私の事相当好きだよね?私なしじゃ生きていけないでしょ?」

「そんな事はないよ。思い上がりも甚だしいよ」

「チッ」

「舌打ちは止しなよ」

「それなら亜季ちゃんだったら?」

「・・・・・」

「どうなの?」

「ふざけてんの?」

「ふざけてないよ。亜季ちゃんの事、今でも引きずってるみたいだから言ったの…」

葵は、僕と一緒にいても時々悲しそうな顔をする時がある。

今もそんな顔をしていた。