しかし、である。

今日の私はツイているのだ!

なんと、徴収課の和木坂要課長も残業しているではないか。

徴収課の主な仕事は保険料の納期を過ぎている会社に納付を促し、督促をし、場合によっては差し押さえもするという、いわゆる汚れ仕事である。

今日の和木坂課長はグレーのスリーピースの背広に紺色のネクタイを締め、厳しい顔で電話応対をしている。

私の席まで和木坂課長の声は聞こえないけれど、きっと保険料滞納事務所の担当者に根気強く指導しているのだろう。

机の上には分厚いファイルが山積みになっていて、その激務ぶりが手に取るように見てとれる。

和木坂課長は私より7つ年上の32歳、独身。

仕事が出来て、その上クールなイケメン。

背が高くスラリと細身の身体と思いきや、腕まくりしたときの筋肉は目を見張るものがある。

きっと「脱いだらスゴイ」ってやつなんだ。

どんな強面な事業主にも恐れず、決して声を荒げることはないけれど、冷静かつ忍耐強く相手を説得し黙らせることが出来る話術を持っていて、なおかつ仕事では自分にも他人にも厳しいと評判だ。しかし面倒見が良く部下には慕われていて、尊敬できる上司ナンバーワン。

事務所内きっての優良株だから、もちろん女子職員のファンも多い。

かくゆう私もそのファンの中の一人だったりする。

もちろん、和木坂課長とどうこうなろうなんて野望は持ち合わせていない。

だって私はウスイサチだから。

あんな格好いい男性の隣にウスイサチがいたりしたら、迷惑以外の何物でもないことは重々承知しているつもりだ。

それに和木坂課長は噂によると職場恋愛を好まない性質らしく、どんな女性職員からのお誘いも袖にするらしい。特に女性にはそっけなくて、バレンタインデーの義理チョコも頑なに受け取らない。だから女子職員には陰で「氷結の和木坂」などと呼ばれている。

でも私が和木坂課長のファンなのは、決してイケメンと評される外見だけを見てではないのだ。