駅前のイタリアンレストランの窓際の席で、私と和木坂課長は向かい合って座っていた。

和木坂課長は見ているだけでも辛そうな、赤いソースのペンネアラビアータを美味しそうに食べている。

私はカルボナーラを注文し、スプーンに濃厚なクリームの絡まったパスタを巻きつけながら、和木坂課長の口から発せられるであろう言葉に、戦々恐々としていた。

美人だったり可愛い女子を食事に誘うなら、理解できる。

しかし私を、このおブスな幸田ミチルを食事に誘うなんて、絶対になにか裏があるに決まっている。

きっとパスタをすべて食べ終わったタイミングで、満を持して用件を切り出されるのだろう。

果たしてネットワークビジネスへのお誘いだろうか?

それとも高い判子とか壺の購入を勧められる?

借金の連帯保証人を探してる?

って、私のバカ!!

・・・一体、私ったら何を考えているの?

自分に自信がないからって、和木坂課長の人格を貶めるなんて。

和木坂課長は決して、自らの利益のために、他人を利用するような人なんかじゃない!

心までブスになってどうするの?

私は自分を猛烈に恥じた。

・・・でも、じゃあ、一体何故?



「この店のパスタ、中々美味いな。」

「は、はい!すっごく美味しいです。」

そう答えつつも、緊張してパスタの味なんて全然わからない。

「そんなに怯えないでよ。取って食ったりしないから。」

「そ、そんな、怯えてなんか。」

「そう?さっきから笑顔が強張ってるように見えるけど。」

私は思い切って自分の正直な気持ちを伝えた。

「私・・・ほら、こんなでしょ?男の人とふたりきりで食事する機会なんて、まったく無くて。だからちょっと緊張しちゃって・・・。嫌な気持ちにさせていたらごめんなさい。」

「嫌な気持ちになんて全然なってはいないけど・・・こんな・・・ってどういうこと?」

和木坂課長は、心の底から私の言ってることがわからない、という顔をした。

私はなるべくあっけらかんと聞こえるように、明るく言った。

「だから・・・ワタシ、美人でもないし可愛くもないし・・・ハッキリ言ってブスじゃないですか~。そういう意味です。もうっ、皆まで言わせないで下さいよ~アハハ!」

すると和木坂課長は眉間を寄せて、不機嫌そうな表情になった。

「どうしてそんな風に自分を卑下するの?君はとても可愛い。俺はそう思う。」

「・・・・・・え?」

「ミチルちゃん、酷いよな。俺はマッチングの時、ミチルちゃんの番号を紙に書いたのに。・・・ミチルちゃんは誰を選んだの?」

拗ねた子供のような声でそう言うと、和木坂課長はそっぽを向いた。

「い、いや・・・私は誰も選んでません。」

「どういうこと?」

「スミマセン!私、サクラなんです!人が足りないからって友達に頼まれて・・・。皆さん、真剣に婚活に取り組んでいるのに・・・私って最低ですよね。」