「仕事はなにをしている人?」

「え・・・と。普通のOLです。事務です。お金を取り扱ってます。」

「経理かな?」

「まあ、そんな感じです。」

アナタと同じ職場にワタシはいます!

「俺も金を扱ってる仕事。金の無いところから、金を引っ張らなくちゃならなくてさ。毎日、疲れるよ。でも誰かがやらなきゃいけない仕事だしね。」

そうですよね。徴収の仕事は大変ですものね。

「・・・悪い。初対面の人に愚痴を聞かせて。」

「いえ!どんな仕事でも大変ですよね!疲れるのは、和木坂・・・さんが一生懸命仕事に取り組んでいる証ですよ。」

「そう?」

「ハイ。私はそう思います。和木坂さんは残業もいっぱいしていつも頑張ってる・・・と思います。」

「随分、具体的に褒めてくれるんだな。」

「や。多分、そうじゃないかな~って。ほら、和木坂さん、真面目そうだし。アハハッ!」

「じゃ、素直に受け取っておこうか。ありがとう。」

和木坂課長が照れくさそうに微笑んだ。



「・・・本当は猫なんて飼いたくなかったんだ。」

ふいに和木坂課長が目を伏せ、その表情が暗い影を落とした。

「どうしてですか?」

こんなにも愛おしそうに猫の背中を撫でているのに。

「猫って自分の死期を悟ると姿を消すっていうだろ?そんな別れがいつか来ると思うと悲しくなる。」

和木坂課長・・・もしかして過去に辛い別れを経験したのだろうか?

私は和木坂課長を励ます言葉を必死に考え、以前聞いたことのある話を思い出した。

「あのね・・・もしケンケンがこの世を去ったら、天国の手前にある虹の橋と呼ばれる場所に行くんです。そこにはお水も食べ物もお日様もあって、ケンケンはなに不自由なく幸せに暮らすんです。そしてケンケンは和木坂さんがこの世を去るまで、そこで待っていてくれるんですよ。だからそんなに悲しまなくても大丈夫です。」

「・・・そうか。初めて聞いた。」

「だから今は、思い切り愛猫を可愛がってあげましょう。」

「ああ。そうだね。ありがとう。」

和木坂課長は私の顔をみつめ、口の端を上げた。

「こんな話、誰にもしたことなかったんだけど、ミチルちゃんなら聞いてくれそうな気がして。なんでだろうな?」

それは私がこの場限りの関係の人間だからです。

旅の恥はかき捨て的な?

それでも和木坂課長の深い部分を知れて嬉しかった。

それから私と和木坂課長は猫あるあるの話題でひとしきり盛り上がった。

「・・・俺、バアちゃんと二人暮らしなんだ。実は今日のコレもバアちゃんが勝手に申し込んじゃって。早くひ孫の顔が見たいって煩くて。俺は結婚なんてまだ考えていないけど、参加費がもったいないし、予定もなかったから一応来てみた。」

「そ、そうだったんですね。」

そりゃそうだよ。

和木坂課長が自ら、ねこんかつに応募するなんて考えられないもの。

「正直婚活パーティなんて馬鹿にしてた・・・でもミチルちゃんみたいな素敵な人と出会えて、今日は来てよかったよ。」

和木坂課長ってば・・・こんなおブスな私にも神対応とは・・・なんていい人!

「素敵だなんて・・・じょ、冗談はよしこさん~!なんちゃって!!」

私は両人差し指を立てて、お祖母ちゃん直伝のギャグをかまし、おどけてみせた。

「ははっ!ミチルちゃんって面白い人だね。」

「はい。面白いってよく言われます~。」

・・・臼井ちさは25年生きて来て、面白いなんて言われたこと、一度もないけどね。