私は肩を落とし、ねこんかつ会場に戻ると、顔が隠れるようにひたすらカメラで猫達の写真を激写し続けた。

ブスという言葉のナイフは、私の心をずたずたに切り裂いた。

ああ、早く終わらないかな。

黒猫にファインダーのピントを合わせた時、ふいに肩を叩かれた。

振り向くと、和木坂課長が軽く微笑みながら黒猫を指さした。

「どう?上手く撮れた?」

「えっ、あっ、ハ、ハ、ハイ!」

和木坂課長が、こんなおブスな私に、声を掛けた?!

驚きすぎて思わず声が大きくなってしまった。

心臓がバックンバックンと音を立て、息が苦しい。

「写真撮るの、本当に好きなんだな・・・えーと・・・」

「あっ!ウ・・・幸田ミチルです!・・・初めまして!」

私は大きくお辞儀をした。

すると和木坂課長は柔らかく微笑んだ。

「・・・初めまして。俺は和木坂要といいます。よろしく。」

うわ。私が臼井ちさだってこと、全然バレてないんだ。

でも・・・そりゃそうよね。

自分でも誰?って思ったくらいだもの。

和木坂課長はソファに座り、黒猫を太腿に載せてその美しい毛並みを撫でながら、立っている私を見上げた。

「そんなところに突っ立ってないで、座ったら?」

「え・・・いいんですか?」

「どうぞ。話しするためのフリータイム、だろ?」

そう言って和木坂課長は、自らの隣の席をポンポンと叩いた。

「で、では。失礼して。」

私は和木坂課長の横に、亀が首を引っ込めるように恐縮しながら座った。

「ミチルちゃん・・・って呼んでもいいかな?」

「はい!なんとでもお呼びください。」

和木坂課長が女性にちゃん付けする人だったなんて・・・ギャップ萌え!

「ミチルちゃん、実は今日の婚活パーティ、あまり乗り気ではなかったんじゃない?」

「え?」

「だって誰とも話さず、人の写真ばかり撮ってあげていただろ。」

「いや・・・えっと・・・・話さないというか、男性陣から声を掛けられなかっただけです!いや、お恥ずかしい。アハハハッ!」

「へえ。そうなの?」

・・・そうだ。

今、私は幸田ミチルなんだ。

だったらいつもの大人しい私ではなく、元気なおブスキャラで乗り切ろう!

「・・・和木坂さんは・・・モテてましたよね!格好いいですもんね!」

「そんなことないよ。」

和木坂課長は長い脚を組みかえると、太腿の上の黒猫に視線を向けた。

「ウチの黒猫、バアちゃんが名づけ親でさ。好きな俳優の名前にちなんで付けたんだ。」

「ケンケンでしたっけ?えーと高倉健?」

和木坂課長は目を瞑って首を振る。

「渡辺謙?」

「違う。」

「松平健?」

「ううん。」

「誰ですか?」

「坂口健太郎。」

「・・・おばあ様、気が若い!」

「だろ!」

私と和木坂課長はそう言って顔を見合わすと、大きな声で笑った。

「ウチのお祖母ちゃんは加山雄三が好きみたいです。」

「普通、そうだよな。」

和木坂課長の真っすぐな瞳が私を覗き込むように捉え、ドキドキが止まらない。

だってこんなに近くで個人的に話すなんて、あの時以来。

でもあの時より、ずっと自然に話せてる。

それはきっと、今の私が幸田ミチルだから。