結局真紀の巧みな話術に乗せられて、サクラでいいのならと、ねこんかつに参加することになってしまった。

男性とマッチングする気はさらさらないので、偽名で参加することを真紀に約束させた。

どんな偽名にしようと考えあぐね、思いついた名前は

「幸田ミチル」

幸せが満ち溢れている、という意味を込めた。

ちょっと安直かもしれないけれど、けっこういい名前だと思う。

慌ただしく一週間が過ぎ、とうとうねこんかつの日がやってきた。

真紀からラインで送られて来た詳細にはこう書いてある。

開催地は恵比寿にある猫カフェ「キャット×キャット」

集合時間は午前11時。

それにしても、髪型、メイク、服に靴・・・ああ、考えるのが面倒くさい。

鏡に映る、青白い顔に黒く長い髪の幸薄そうな女・・・これが私。

・・・そうだ。どうせ偽名なのだから、姿形も別人になってしまおう!

ウスイサチを捨て、生まれ変わるのだ。

そう思いついた私は、別人になるべく、化粧品を鏡の前にずらりと並べた。



まず青白い顔をカバーすべく、血色が良く見えるピンク系の下地クリームを塗り、そのあと明るい色のファンデーションを上塗りする。

うん。血色が良くなった。ちょっと厚塗りだけど。

ブラウンの眉マスカラで、太眉メイクを施す。

うーん。ちょっと眉毛太過ぎ?

淡いピンク色のアイシャドウを瞼の上に乗せ、目のきわに思い切りアイラインをひき、いつもより目をパッチリと見せるようにする。

そしてベージュピンクのチークを頬にポンポンと乗せる。

ん?チーク濃すぎる?

いつもは薄く塗るだけのリップクリームも、濃いピンク色のつやリップをしっかりと塗り、唇をプルプルにする。

「ここをこうして・・・ここをもっとぬりぬりして・・・・・・出来た!」

これでだいぶ「ウスイサチ」からは遠のいた。

このフェイスにいつもの度の強い眼鏡をかけ、長い髪を2本に結わく。

下北沢の古着屋で購入した、グレーのゆったりとしたAラインワンピースに丸いカゴのバックを持てば、なんちゃって森ガールの完成だ。

ベレー帽をかぶって一眼レフのお洒落カメラを首からぶら下げれば、こだわりの強いサブカル女子にも見えるかもしれない。



「ウスイサチ」から「幸田ミチル」へ変身した自分を再び鏡でみつめる。

・・・ん?この人誰?

と自分でもツッコミを入れたくなるくらい、変身前のウスイサチは跡形もなく消えていた。

このメイク術なら、ざわちんにも負けないだろう。

ちょっと化粧が濃すぎるかもだけど・・・まあ、いいか。

別人になるのなら、これくらい思い切ったメイクをしなくちゃね。

どうせ男性とマッチングする気なんてさらさらないし。

スマホで時間を確認すると、もう10時を回っている。

いくらサクラだとしても遅刻はルール違反だよね。

私は火の元の点検をし、部屋の鍵を持つと、急いで玄関の扉を開けた。