「イザベル様、こちらへ」
私は、高位貴族に許された談話スペースの、更に個室に彼女を誘う。
伯爵令嬢のイザベル様は、気後れしたような表情をしていたが、意を決して個室に足を踏み入れた。
そこには、3人の少女。
アレクサス侯爵令嬢イェーナ様
ミューレン伯爵令嬢カトリーナ様
ジェット子爵令嬢アンナマリー様
「全員揃いましたわね」
私は、静かに語りかけた。
皆、一様に苛立ちと困惑の表情をしている。
派閥も、領地の位置関係もバラバラなこの面子の、唯一の共通点は。
『婚約者をミクに取られた』令嬢達である。
「まずは、皆さまに謝罪いたしますわ。
我が義妹が、皆さまに不快な思いをさせ、深く傷つけていること、大変申し訳なく思っています」
「そうお思いなら何故、お止めにならないのです!」
気の強いイェーナ様が、私に喰ってかかる。想定内。
私は、それは悲しそうに目を伏せる。
「…下手なことをいたしますと、皇家の方から…ね」
4人が息を呑むのが分かる。
何となく察していただろうが、私の発言で確定したようなものだ。
——エドウィン様の、心変わり。
「私は、同じ思いをしている貴女方に、破滅して欲しくないのです」
これは、本心。
貴女達は何も悪くない。
だから、助けたいの。
「このままだと、先々代皇帝陛下の時の、断罪事件の二の舞になる可能性があります」
「ひっ…」
アンナマリー様が、軽く悲鳴を上げた。
先々皇帝陛下は、当時の婚約者の公爵令嬢を無実の罪で断罪し、強引に平民の娘をその公爵家の養女にさせ、皇后にした。
断罪された公爵令嬢は、魔物の森で悲惨な最期を遂げたと言う。
「だから、先に婚約の解消に動きませんか?」
「そんな…私達、傷物ということで、結婚できなくなります。
政略結婚でもあるから、家としても許されません…」
悲しそうに言うのは、カトリーナ様。
穏やかな彼女は、ミクと婚約者が一緒にいても、哀しげに微笑むだけ。
愛し愛される幸せな結婚、全てを諦めているのだ。
———そんなの許さない。
私の周りの女の子は、皆『幸せ』でなくてはね!
「では、それら全てをクリアできたら、賛同していただけますか?」
自信満々で、私は語り出す。
まず、記録画像と領収書をそれぞれに示す。
「これがあれば、相手の有責で婚約解消できると思いますわ。
こちらは、アルバート様が女性の腰に手を回している画像。この領収書は、ミクに贈ったプレゼントですわね」
あ、イェーナ様、キレそう。
「申し訳ないのですが、ミクが自分から男性諸氏に触れているものはありません。
実際にしてないのです。
言い訳に聞こえるかも知れませんが、ミクの世界では、近い距離での男女の会話は当たり前なのです。まだこちらに来て1年も経っていないので、中々こちらの常識に慣れるのは苦戦しております。
とにかく、今は男性にはダンスの時以外触れないことを徹底させているところです。
ご理解いただけると嬉しいですわ」
それだけ一息に言うと、私は目の前の冷めたお茶に口をつけた。
話に集中していた他の令嬢達も、思い出したようにお茶を飲み始める。
次に意を決して話し出したのは、イザベル様。
「マーガレット様には、婚約解消後の処理にも腹案があるようにお見受けしますわ。
お聞かせ願えますか?」