桜がとても好きだ。私はピンク色が好きだし、桜を見ると様々な感情が湧き出てくる。
友達との出会い、別れ。クラス替えのあのドキドキ。初恋のあの子。きっと誰でもそうだろう。

それが思い出したい記憶でも、思い出したくない記憶だとしても。

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6時きっかりに起き、布団を片付け、セーラー服に腕を通す。それが今までのルーティーン。
だけど、今日からはシャツに腕を通す。そして、次に着るのは憧れのジャンバースカート!!!これを着れるのが信じられないくらい嬉しい。
そしてリボンを結ぶ…。
「あれ?どうやって結ぶんだっけ?」
鏡に映ったのは、ぐちゃぐちゃのリボンらしき何かだった。
「透に教えてもらったんだけどなぁ…。」
女子の私より遥かに女子力が高い幼なじみ、透はとても器用だ。中学生の時のセーラー服のスカートで私は自分の不器用さを学んだので、あらかじめリボンの結び方を教えて貰っていたのに。やっぱり透がいないとどうにもならない。
けれど、今日からは透はいない。私が行くのは女子校だからだ。いくら女子力が高い透でも、さすがに入学は無理だろう。
透にリボンの結び方をメモしてもらったものを見て、何とか結ぶ。
慣れるまでには、まだ少し時間がかかりそうだ。

私が通う星蘭女子高校は、家からかなり遠い。家から歩いて15分の駅から30分電車に乗り、そこから40分バスで山を登る。要するに、とても田舎の中にあるのだ。
私の町はどちらかと言うと都会だ。…と思う。
だから、バスの中、いつもと全く違う光景に目を奪われていた。私はバスに酔いやすいから、なるべく真ん中の方に座る。そうすることで振動が少なくなって、酔いにくくなるらしい。
あとは絶対窓際!!その方が景色が良く見えて、楽しいんだもの。
「にしても、どこまで行っても田んぼだなあ…。」
ぽつりと呟いた。
こんな行きにくいところにある学校に来る人なんて、よっぽど物好きなんだろうと思うかもしれないけど、そんな事は気にならないくらい私にはこの学校が魅力的だったのだ。
「ふふっ」
「?」
隣から笑い声が聞こえた。
「ほんと、どこまで行っても田んぼやなぁ。」
隣に目を移すと、そこにはよく日焼けしたつり目の女の子がいた。
「田舎やってことは聞いてたけど、まさかこんなにとはなぁ。驚き桃の木…なんやっけ」
「山椒の木、ですか」
「あーそうそう、それ!」
「あはは」
「なんやー?」
「古いです、もう死語なんじゃないですか?」
「なっ…」
やたらに表情がクルクル変わって面白い。いつの間にか口角が上がる。
「…まあそれはそうと、自己紹介させてもらっていい?私は藤川優里、1年生や。」
「私も1年生です。蓮見みのりって言います。」
「蓮見みのり…『はすみの』やな!」
「初めて呼ばれました。」
「せやろ、私ネーミングセンスあるから!!」
「私はなんて呼べばいいですか?」
「なんでもええけど…だいたい『ゆーり』って呼ばれてるかなぁ。」
「ゆーりちゃん、ですか。」
「ちゃん、なんて…なんかくすぐったいなぁ」
「すみません、あまり呼び捨ては得意じゃなくて…」
そうか、と言ってゆーりちゃんは微笑んだ。私もぎごちなく微笑んだ。
バスは山を登っていく。

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