まだら模様の太い蛇をまじまじ見ているのも気分が悪いので、潔はこれをねこ柄のエコバッグにさっと仕舞った。用事は済んだし長居は無用とばかりに立ち去ろうとする潔を、文藏は呼び止める。

「待て潔。あー、あのな、お前、今年でいくつんなった」

 なんでそんなことを訊くんだと潔は訝しみながら「16」と答えるだけ答えてまた立ち去ろうとする。

「待たんかい。なんでそう、すぐ帰っちまおうとする。まだ話の途中だろうが」
「帰りたいから」
「素直か。年長者の話は足止めて聞かんかい」

 潔はこれを聞いて嫌だなぁ、と思った。そして「嫌だなぁって顔をするな」と文藏に叱られる。しかし、

「帰りたい。面倒だ。若者の時間を奪うな」

 と、潔も負けてはいない。
 文藏は「ふてぶてしいやっちゃ」とため息をついた。ふてぶてしいのはお互い様である。

「年寄りの話を聞かないとな、後悔するんだ。ああお爺さん、死んでしまう前にもっと優しくしてあげるんだったと、こういう具合にな」
「前置きが長い。結論だけ言え。いつ死ぬ予定なんだ」

 そこまで言う? とさすがの文藏も眉をハの字にする。これも年の功と言うべきか、この顔をすると自分が気の毒なご老人っぽく見えるのを、文藏はよく理解しているのだ。

「正の奴、孫の躾がなっとらん」

 と、文藏が言う正(ただし)とは潔の祖父のこと、文藏は正を舎弟として『可愛がって』おり、死んでしまった時は葬儀に駆けつけて「良きパシリ……いや良き友人を喪った」と大層嘆いたものだった。
 祖父は祖父で、普段は寡黙な人だったが酒に酔えば文藏を口を極めて罵っていたので、こちらもお互い様だったと言える。

「ま言いたいことはいろいろあるが約束は約束だからな……」

 文藏がぼそぼそと意味深なことを言うので潔はなんのことかと聞き返そうとした。しかし文藏は突然「ちょっと待ってろ。帰るなよ」と言うなり店の奥の扉を開けて居住スペースに引っ込んでしまう。

「なんなんだ、いったい……」

 潔は帰りたくて仕方がなかったが、約束という言葉が気になってとりあえずは待つことにする。