周は人の姿を取り戻した無風を驚愕の表情で上から下まで眺めると、「お、お母さーん!」と叫んで台所に消えた。我が弟ながら、なんと情けなく可愛い姿、と潔は微笑んだ。
 微笑んでいる場合ではない。

「あらま! やだ、こんなイケメンになっちゃって……ところでなんで全身タイツなのかしら。趣味?」

 優子はそう言ってはしゃいだ。無風は悲しそうに「違います」と否定した。
 居間のテーブルを挟み、優子と無風が向かい合う。潔は無風の隣に座り、「一時間ぐらいしか人間に戻れないらしい」とさっき自分の部屋で無風に言われたことをそのまま伝えた。

「ご無沙汰しています。すみません、こんな格好で」

 謝罪する無風の横で、潔は「いろいろと大変な事情があるようだ」とフォローを入れる。やはり申し訳なさそうに、無風は潔を見た。あまり悲しそうな顔をされると、姿とのギャップがシュールで、本当に失礼なのだが、潔は笑いそうになる。

「優子さんにはご心配をおかけしますが、時間がないので結論から言います。潔さんとの結婚をお許しください」
「いいわよ」
「待て。急にテンポが良すぎないか? 無風君も、小さくガッツポーズ、じゃないんだよ」

 あまりにとんとん拍子過ぎて、潔は慌てた。文藏に話を聞いてから、何時間も経っていない。