瑞樹は組んでいた足を解くと話し始めた。

「前に僕のことちひろには黙っていてってお願いしたよね」
「うん」
「ちひろは僕のことをあまり好いていないんだ」
「えっ…」
「これからあの家で過ごす時間が増えるにつれて真琴はいろんなことを知ることになる。表向きは裕福で誰もがうらやむような生活をしているように見えるかもしれないけれど、そうではないんだ。だからちひろはあの家に誰も連れてこないんだと思う。
もしかしたらちひろは、真琴が知られたくないことを自分が知ってしまったから自分が知られたくないことも真琴に知ってもらおうと考えたのかもしれないよ」

瑞樹の言葉に胸が苦しくなった。

月の眩しい光が胸の中心を突く。

わたしにはまだちひろに言えてないことがある。

わたしの家はあのマンションじゃない。

その裏にあるボロボロの平屋。

ちひろはすべてを見せようとしてくれているのに、それができないことに罪悪感を覚えた。

瑞樹は遠くを見つめた。

視線の先には公園を囲うように立っている木々とその隙間から見える住宅の明かりだけ。

瑞樹が見つめているのは木々でも明かりでもない頭の中に浮かべた中村岬さんの姿だった。