トイレから出るとさっき座っていた場所に戻った。

残りの時間をどういう風に過ごせば寂しくない時間が長続きするかなんて考えても思いつくはずがない。

そんな方法存在しないのだから。

結局他愛もない話をして時間は過ぎていく。

理斗君は終始いつもと変わらない様子で、わたしと離れても平気みたいに見える。

「ねぇ理斗君」
「ん?」

───理斗君はわたしと離れても平気なの?

そんな言葉を言いかけて飲み込んだ。

その質問は同時にわたしが平気じゃないことを伝えてしまうから。

今から旅立つ理斗君に心配させるわけにはいかない。

とにかく最後まで笑顔で見送るんだ。

「そろそろ行かないと」
「そうだね」

席を立つと見送れるところまで一緒に行く。

「わたし、飛行機乗ったことないんだ~」
「そっか、じゃあ今度飛行機でどこか行こうか」
「うん!」

わたし達は足を止めると顔を見合った。

「じゃあここまでだから」
「うん」
「着いたら連絡するよ」
「待ってる」
「じゃあ、行ってくる」
「うん、バイバイ」

わたしは精一杯の笑顔で手を振った。

理斗君はわたしの頭を少し強めに撫でると「じゃあ」と手を上げて歩いて行った。

肩に掛けたカバンを掛けなおすと壁の向こうに消えていった理斗君。

理斗君が見えなくなると顔いっぱいに広げていたわたしの笑顔は一気にしぼむ。

涙が溢れ、人に気付かれないように下を向いた瞬間わたしを呼ぶ理斗君の声が聞こえてきた。

「真琴!」

ばっと顔を上げると向こうに理斗君がいる。

理斗君は普段なら絶対に出さない大きな声でもう一度わたしを呼んだ。

「真琴っ‼」

周りの視線を感じながらわたしは同じくらい大きな声で返事をした。

「はいっ‼」

理斗君はにこっと笑うと言った。

「寂しかったらいつでも連絡しろよ!!」

そして大きく手を振る。

「うん!!」

わたしは大きくうなずくと両手を使って手を振った。

理斗君は吹き出すようなしぐさをすると、手を振り返す。

理斗君の姿が徐々に壁の向こうに消え、最後にわたしに向かって振る手が壁の向こうに吸い込まれていった。